もたらされる/登田剛
剛、真夜、亜子は六華達と別れ、さらに西棟側へと進んでいた。
「早く、逃げて……君たちに何かあったら、明崇君が悲しむじゃない」
――私も六華ちゃんも、顔向けできないよ。
高峰にああ言われて仕方なく。真夜も目の端に涙をためながら、それでも剛の指定した脱出ルートを移動している。
しかし剛の耳に。突然インカムからの声が届く。剛は思わずその足を止めてしまった。
「剛!?」
真夜が叫ぶ。亜子もせかす様な目を剛に向ける。
でもその声が、耳に入らない。
Bluetoothで接続した剛のイヤホン。そこにインカムから傍受した、途切れ途切れの音声が流れ込んでくる。
『近……一、死亡……、ミーティング……半壊して、い。おそらく、牛……が確認できず、三、明崇、のす……はない』
聞き取れる内容を要約するなら。
近衛一は、逝去。彼のいたミーティングルームは半ば壊滅。牛鬼の姿はそこにはなく、同様に――。
明崇の姿も確認できない。
そん、な……
先ほどから二十数個の警備部側、警護課とSIRGを含めたインカムに接続、無線を傍受できている中、明崇のインカムに“だけ”接続できない。接続不良かとも思っていたが、まさか……
「ッ……」
頼む、もう一回、もう一回だけ――
剛はイヤホンの、Bluetoothの接続を切った。
すると今度はパソコンから直に。その声が聞こえてくる。
『だ、れ』
この、声。間違いない――。
「アキ君ッ」
真夜と亜子が駆け寄ってくる。
「明崇なのか」
『アレ……なん、俺、生きて……』