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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
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惨状と……/汽嶋太牙

あの――クソ生意気なガキが。

「どこ行った……?」

西棟(ウェスト)側。汽嶋は牛頭羅の構成員を相手どりつつ、その端、ミーティングルームに向かったはずの明崇を探していた。

「重すぎんだよこれ」

背に負った金剛杵(バジュラ)姥鮫(ウバザメ)。そもそもが明崇が設計したものだ。

「……死んでるかもな、アイツ」


もし牛鬼に遭遇したら。おそらく汽嶋なら。まず勝とうだなんて思わない。


できるだけ致命傷を避け、最終的には相手をしつつ、時間を稼ぎ増援を待つ。そもそも特Ⅰ(エクストラ)越えの鬼人相手に、たった一人で立ち向かおうとするのが無謀なのだ。


でも明崇(アイツ)は。多分一人で勝とうとする。


ただの馬鹿。そう思う以上に明崇のその、鬼人に立ち向かわんとする姿勢には、狂気染みたものを感じる。

――勝たなければならない。

強迫観念にも似た何か。それが明崇を覆っているのだ。


勝てるかどうか見極める前に、“勝たなければならない”そう思い込ませられているように感じる。そう、沖和正にだ。


見たことがある。一度だけ。明崇が和正に稽古をつけてもらうのを。

あれは訓練などではない。ただのリンチだ。


もう無理です。ごめんなさい、ごめんなさいと。泣き叫ぶ(よわい)十代にしか満たない少年の薄い胸を無慈悲に蹴り上げていた。髪の毛を乱暴につかみ引っ張り上げ、圧倒的な強さで叩きのめす。最後には鬼人であることをいい事に、その腹を自身の金剛骨で貫くのだ。汽嶋でさえあの光景には、少なからずショックを受けた。高峰と和正の娘が、何度止めに入っていったことだろう


「勝たなきゃ、殺されるぞ。鬼人を殺すこと。それくらいだ」

――お前の存在意義は。

沖和正がそう言っているのが聞こえた。その時の明崇の、絶望に沈み込んだ様な目付きが忘れられない。


そして四年たった。あいつはそのまま、それなりに大きくなりやがった。

汽嶋にも、積極的に話してくるようになった。

――汽嶋さん、手合わせお願いします。


あいつの中身は変わっていない。でもそれはきっと、おかしなことなのだ。きっと目に見えてないだけで、他の奴らとは違う点できっとどこかが変化している。その証拠にたまにアイツからは、狂気的な一面が見え隠れするときがある。

――俺はあいつのそんなところに恐怖心か何か、覚えていたのかもしれない。


今思えば、あの頃明崇は中学生。友人からも切り離された明崇は、少なからず話し相手が欲しかった、それだけの事と言われればそれまでだが。


明崇自身がああいった境遇だ。積極的に人に関わろうとはしない。しかし、本当は結構明るいやつだというのは、SIRG十三係のメンバーなら知っている。


そうあいつは、純粋なのだ。

沖和正の拷問の様な訓練を受け、それでもなお亡き家族、そして行方知れずの弟のために戦っている。

純粋なその家族愛は、先ほど言ったように――狂気の裏返しなのかもしれない。


そしてあいつなら、アイツならもしかして。

――牛鬼を倒してしまうんじゃないだろうか。


汽嶋(オレ)はそう。少なからず明崇(アイツ)に、期待もしている。



「おいおい、何だよこれ……」

汽嶋は、ミーティングルームに到着していた。外壁に巨大な穴が開いている。そこから夜の秋風が、轟々と吹き込んでいる。


その、最も窓際に近い位置に。


間違いない。

――近衛一。


体中、穴だらけ。牛鬼にやられたと考えるべきか。

その他にも、集まっていた日中韓、鬼人の有識者。同様に穴を開けられ物言わぬ肉塊となって、汽嶋の眼前に広がっている。


この惨状を見ればわかる。

――近衛一を、ここまで一方的に……。

牛鬼。やはり想像以上だ。


「早く他の係……寄こせよな」


SIRG一~十三の係はそもそも、警視庁の区分における一から十までの方面本部の元にその役割を割り当てられ設置されていた。もはや形骸化しているが、ここは港区、警視庁でいう第一方面本部の管轄。

「一係は何してんだよ……」


仕方なく。汽嶋はインカムのスイッチを押す。

――こういうの、俺の仕事じゃないだろフツー。


鬼人勢力の均衡を保つ・御三家の一角が、崩された、それは間違いなく、事実。


いよいよ、ただ事ではなくなってきた。



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