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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
182/287

紅い金剛骨/近衛六華

――ダダダッ


機関小銃、自動連射(フルオート)の銃声。そして背後から、六華に誰かが呼びかけた。

「六華、ちゃん。しっかりして」

高峰、詩織――。

足を引きずるような音。荒い息。彼女はそれでも、六華を鼓舞する。

「これは近衛六華――貴方が、御三家の一角、その次期当主として超えるべき、壁なの。一歩たりとも引いちゃ、ダメ」

――皆戦ってるんだよ。


「もう、真夜ちゃんたちは逃がしたから。あの子たちは無事。私はもう、ダメかも知れない、けどッ」


「詩織さんっ」

敵を背に、思わず振り返ってしまう。倒れた詩織に駆け寄ると、頭部から血を流していた。


「ダッセェ。ダセェよ姉ちゃん。これだから弱者は」


弱者?

この人は、強いよ。高峰さんはその身を挺して、私達を庇ったんだ。そんな人を弱者呼ばわりなんて。


許せない。


「キミなんか、零士君じゃない……」

「ハァ?」

振り返る。鬼人化薬を、首筋にためらいなく注射する。長く邪魔なドレスをビリッと。勢いよく破り、動きやすいよう腰に巻き付ける。

近衛家次期当主として、君を、倒す……!

「キミが本当に零士君だって言うなら。私が止める。この、私が――」


最愛の弟に、六華は立ち向かっていった。


「オラ、おせぇぞ」

「んッ」

――うるさいッ。

幼いころから、素手の組手は嫌というほどやらされた。しかし六華のしなやかな体から生み出される、持ち味ともいえる回し蹴りも、難なく交わされてしまう。

それでも、勝機はあるはず。

――ここッ。

屈みこみ、零士の拳を躱した後、六華はその腰からふくよかな毛束の様な金剛骨の尾を出した。

「ふん……」

それもいとも簡単に、零士の熊手のように巨大な金剛骨にガードされてしまう。


何なの、あれ――。

零士のあの金剛骨の尾。幼いころ……少なくとも行方不明になる前はあんな、攻撃的な形状ではなかった。


まるで、(ケモノ)の拳だ。


「可愛いな、金剛骨(ソレ)

「馬鹿にしないでッ」


中程度の距離では巨大な尾に阻まれ何もできない。

何とかしてその懐に、飛び込む。

再び組手に持っていかなければ、勝機はない。

――うん、これなら。

零士君の動きが読める。彼の癖も、戦い方も。私はよく知っている。

(てのひら)で受ける。死角になる位置から蹴り。それもフェイント。

――お仕置きだよ零士君ッ

このまま――

「いッ、うゥ……」

六華の、左腕が絡み取られ、捻りあげられる。そして。

「がっかりだよ、姉ちゃん」

「うっ、あああッ」

六華の体に、零士の尖った拳が深々と突き刺さった。


嘘。


ねぇやっぱり嘘なんだよね?

目の前に無表情の、零士の顔がある。余りに綺麗な彼の瞳に、絶望しきった私の表情が映っていた。こんなきれいな目のまま、なぜ彼は家族にこれほどまで容赦しないのか。


「俺と姉ちゃんじゃ、根本的に違う……。強さへの執念の差だよ」


まだ……抵抗しなきゃ。

痛みに引きずられながらも奮い立たせる、体を動かそうとした、その時だった。


六華が自身の、体の異変に気付いたのは。

金剛骨がボロボロと、崩れていく。鬼人化が、保てない。

「え……なん、で」

零士を再び見ると。その姿が既に、徐々に豹変していっていた。


金剛骨が真紅。真っ赤に染まっていく。近衛家特有の灰色の金剛骨、それに骨を通すように、それとも決別の亀裂を入れるように。真っ赤な金剛骨が、零士の巨大な尾から徐々に、広がっていく。


煌々と(あか)い狼。


こんなの、知らない。


そもそも赤い金剛骨なんて、聞いたこともない。確実に、近衛家に由来する金剛骨じゃない――。

そして六華の鬼人化が解けていく。これは赤い金剛骨の、力?


「俺がそもそもただの鬼人に……明王(ミョウオウ)にも到達してない鬼人に、負けるわけねぇだろ」


明、王?


「殺さ、ないの?」

挑発。痛みに口の端を歪ませて、六華は引きつりながら笑いかけた。

「殺す価値もねぇ」

腕が引き抜かれ、その痛みが突き抜ける。鬼人特有の細胞再生が起こらない。六華は力なく、その場に崩れ落ちた。


零士が、去って行く。後ろで控えていた覆面の男たちも。倒れる六華を意に介さず、通り過ぎていく。


足音が遠ざかる。一人になる。


「誰、か」

倒れ伏しながら六華は何とか声を絞り出す。

お願い、三位君、三位明崇君。零士君を、私の弟を――


助けてあげてください。


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