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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第七章 紅明王・フォンミンワン
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亀裂/近衛六華


ダメ――信じたくない。

歩み寄ってくる。覆面集団の殿(しんがり)、先頭に立つその男。一際暴力的な、返り血の様な装飾がなされた、スプラッタな覆面を被っている。


先ほど高峰詩織を弾き飛ばしたのは、その覆面の鬼人の巨大な“尾”だった。


その尾の先は獣の爪のように、先端に向かい五つの俣に分かれている。


忘れもしないあの日の事――。

二年前。



「零士君の馬鹿ッ」

「姉ちゃん……」

零士の頬をひっぱたいた。彼の手から、先ほどまで被っていた狼の覆面がポトリと落ちる。


その日は、もう深夜二時を回っていたと思う。


「夜中いっつも出歩いて……何をしてるかと思ったらっ」

「何も、そんな悪い事してないって」

思わず、抱きしめる。また少し背が伸びた、六華の背をとっくに追い越したその体に縋りつく。

「夜遊びはダメ!何度言ったら分かるの」

でも口から出たのは心配させないでというセリフの代わりの、叱責だった。それでも零士はおかしそうに、ケラケラ笑うだけだった。

「姉ちゃんはケチだなぁ」

――こんなに楽しいのに。


あの頃の零士はいつも、夜遅くに屋敷に帰ってきていた。一が彼に、いつもつらく当たるから。そのストレス発散にか、彼は夜中で歩いて、あまつさえバイクに乗り、一晩中駆け回っていた。

暴走族と言えばまだ、可愛いものだったのかもしれない。


近衛家の中でも滝と欣二という、仲の良かった弟分、兄貴分を連れて。気が付けば六華といるよりも、二人といる時間が長くなっていった。


そして事件が起きた。


零士の乗っていたバイクが、東名高速で大破して見つかった。滝、欣二のお気に入りのバイクも程なくして、その近くで見つかった。


忘れたくても忘れられない。最後に見た零士君は事故の前、六華にこう言ってきたのだ。

「姉ちゃん、俺と近衛家(ここ)から出よう」

いつになく真剣な表情。そのころの彼は髪を金髪に染めるようになっていて、そんな彼とは余り会話もしなくなっていた。少しだけ、避けてしまっていたのだ。

「考え、させて……」


結局私は、零士君に何も。何もしてあげられなかった――。


でも。


「でも、どうしてッ」


六華の叫びを受けてか。後ろの集団を制するように手を上げる。そしてその男は。

被っていた覆面を、脱ぎ捨てた。

「うるさいなぁ」

――姉ちゃん。

肩までかかる金髪。男らしい顔立ちは無邪気に笑うと、意外と幼く見えるのを六華は知っている。


「零士、君……」

――生きてた。

それは嬉しい。今すぐ縋ってごめんねと喚きながら。彼に謝りたい。もう離さない。一人にしないとそう言ってあげたい。


でもそれができないくらい。

二人の間には、見えない深い溝がある。


「零士君、帰ろう?」

ぎこちなく、微笑みかける。

「皆待ってるよ?小梢も、零士君の事すっごく心配してて……えと、それとね」


「それはできない」

冷たい、拒絶の言葉。それは六華の心を切り刻まんとばかりに、怜悧に尖っていた。

「現実受け入れろよ……馬鹿な女だな」

「零、士……君?」

そんな乱暴な言葉使い、お姉ちゃん教えた覚えないよ?どうしちゃったの?ねえ、ちゃんと仲直りしようよ――


茶化そうと、二年前の彼を引き留めようとした言葉が、頭の中に浮かんでは消える。


「俺は、お前らの、敵――わかんないかな」

バキバキと、彼の腰から伸びた、やけに太く攻撃的な尾が、威嚇するように蠢く。その体は近衛家の鬼人特有の、毛皮の様な灰色の金剛骨に覆われている。


「近衛一は、もう死んだってさ」

嘘。

「近衛兵は、俺らが皆殺しにした。全滅だ」

嘘だよ。

「滝も欣二も、うんざりだってさ」

「嘘だよッ」


「零士君はッ、そんな事、しない――」

パパが死んだ?近衛兵が全滅?そんな、嫌だ。嫌だよ。

パニックになる。胸が苦しい、どうしたら、どうしたらいいの。助けて、ねぇ。


三位君。


――ダダダッ。


その時背後から、銃声が響いた。


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