第二勢力
ビルのやけにツルツルとした壁面と廊下が、徐々にむき出しのコンクリートに変わっていく。どうやらこの先は改修工事を行っていたフロアの様で、照明の落ちたほの暗さもあり、酷く不気味に陰っていた。
「ちょっと待ってて」
新たに現れた大きなドア、そこを前にして立ち止まる。詩織が何やら、パスコードの様なものを入力し始めた。
「明崇は……大丈夫なんですよね、大怪我したりもしもの事なんてのは、無いんですよね」
ずっと先ほどから青ざめた顔をしていた。真夜が絞り出すような声で詩織に問う。
「……」
「答えてよ詩織さんッ!」
それでも詩織は、何も言葉を発しない。六華もずっと、沈黙を貫いている。
「い、嫌だっ、アキ君はいなくなったりしないもん」
亜子が沈黙に耐え切れなくなったか、小さく金切り声を上げる。
「亜子、落ち着け」
剛はひとまず、亜子の肩にその手を置いた。その肩はまだ、小刻みに震えている。
クラスじゃ一言も話したことがない。そもそも学校にすら来ない。純粋故に真夜だけでなく、救った亜子本人に対して過剰なほどに距離をとる。
そんな明崇と、此処まで親密になれたのだ。
亜子には恋愛とか……そういった事はよくわかっていないようだが。
それでも明崇、真夜を含めた四人で過ごしたこの二か月間。それによって明崇という存在は――
亜子にとってかけがえのない、友達以上の存在になっていた。
知っている。だって双子である剛もまた、明崇の事をそれくらい想っている。
明崇は俺たちの、家族だ。
だからこそ失くせない。
大丈夫。打てる手は全て打った。あとは時間の問題ーーきっと。
もうすぐ、もうすぐで。明崇のインカムに接続できるはずだ。
「ガチャン」
鈍く響く音。どうやらやっと先に進む。そのドアが開いたようだった。
「行こう……」
詩織さんが呻くように言う。そして五人はその先へ踏み出し、そして――
「皆伏せてッ」
叫ぶ詩織。その姿は同時に、剛の視界の中、弾き飛ばされ吹き飛んでいた。
庇った……嘘でしょ――。
あの身のこなしは鬼人でも、並の反応速度じゃない。
でも流石の高峰詩織も、その素早い一撃を感知できても、その身に受ける事しかできなかったようだ。
「詩織さんッ」
そして襲来した“鬼人集団”それを見て六華は、絶句した。
狼、豚、馬……様々な動物を模した覆面。だが圧倒的に、狼の覆面の姿が多い。
六華には当然、見覚えがあった。
「ウソ……どうして」
――怒紅狼、なの?