出来る事/登田剛
「うぅッ……」
剛達は何とかあの惨劇から逃れ、一つ上の階に、身をひそめていた。そして四人で座り込んだその時突然、六華が静かに泣きだしたのだ。
「うッ、嫌……もう嫌ぁ」
「先輩……」
真夜が六華を抱きすくめる。丁度、いつか明崇にしてあげたように。
「ご、ごめん、真夜ちゃん、私ッ」
「会長さん、泣かないで……」
「亜子ちゃん……」
亜子も加わり、三人で抱き合う。
――そうか。そうだよな。
剛は合点する。
今回襲撃してきた、“牛頭羅”と六華の呼んでいた集団は、どうやら彼女の事を狙ってるらしいと言っていた。
そう……近衛家の次期当主である六華のその肩には、先ほど目にしたものも含め、夥しい数の死がのしかかっているのだ。心のうちは、そう穏やかではいられないだろう。
そんな震える彼女の姿に、剛の庇護欲が掻き立てられる。
――馬鹿か俺は。
「こんな時に……」
「どしたの?おにいちゃん」
亜子がその大きな目を、潤ませながら問いかけてくる。
「いいや、何でもない。大丈夫だ」
取りあえず、六華と共にここから四人で逃げ出さなければならない。そのためにもその、牛頭羅についてもっと知らなければ。そう思い、愛用のタブレット端末を開こうとした。
その時、真夜がつぶやく。
「明崇が……」
「明崇が、どうしたんだ」
真夜に浮かぶその表情は……悔しさそのものだった。唇をかみ、彼女は続ける。
「あの女の人相覚えてろって……明崇が折角教えてくれてたのに……あたしの馬鹿」
何――。
「あの、チャイナドレスの女の」
「うん」
確かに、あの女を見た時真夜は、何か思い当たったような顔をしていた。
「でも、何で気づいたんだろう……あの女が、敵だなんて」
すると剛を挟んで向かい、泣き止んだ六華が言った。
「違うよ……多分明崇君は牛頭羅の構成員である事に気づいたんじゃなくて……きっとあの女が、鬼人であることに気づいたんだと思う」
「どういう、意味ですか」
「三位君は、龍骨因子の保持者――龍の鬼。過去の記述だと龍の鬼は優れた直感を持っているって言われてるの。飢饉を予言したり暗殺を回避したり。でもホント、龍の鬼の個体数そのものが少ないから……伝説レベルだと思っていたけど、本当みたいだね。そういや大黒君も三位君の直感について……何か言ってた気がする」
三位明崇。
彼は今までずっと一人で戦ってきた。亜子の事も、守ってくれた。
その存在の大きさを。剛は改めて認識させられる。
――今の俺に、できることは、なんだ。
剛は決意しタブレットだけでなく、小型のノートパソコンを起動した。