侵攻/都築実
僕は正直、気が気じゃなかった。
あれから僕を含めた、この犯罪集団は都内のビジネスホテルを転々としていた。
――いつばれるかも分からない。
日本の警察は優秀だ。記者の僕は嫌なほど知っている。こんなのすぐに見つかって、僕は、僕は――
なのにニュオグェイはいつも堂々としていた。その日の宿泊先も、どうやら彼の伝手の様で、全く不自由しなかった。
あの時訪れた渋谷の……あの秘密めいたパーティホール。
あそこで出会った若者達も含めて、この集団はさらに大所帯になっていった。
彼らはどうやら普通の日本人みたいだった。まともに日本語をしゃべりながらニュオグェイと、常に何か、その“攻め入る計画”について話し合っていた。
つい、僕はそのリーダー格の青年の前で、先ほど思い浮かべたことを、そのまま呟いてしまった事があった。
「いつか……絶対捕まる。日本の警察は、そんな軟じゃない」
自分の目の前に落ちた影。見上げるとその、金髪の青年が立っていた。
「へぇ、オジサンはそう思うんだ」
殴られる、じゃなくても何か、暴力を振るわれると思い、顔を伏せた。しかしそれは、とんだ勘違いだった。
腰を下ろす。彼の胸元の、髑髏をあしらったネックレスが覗く。それが催眠術の振り子のようにプラプラと、やけに意味ありげに揺れていた。
「確かに日本の警察は優秀さ、まぁ」
――敵に回せば、だけどな。
年相応の笑顔。それがその時の僕には、何よりも恐ろしいものに思えた。
純粋かつ、混ざり気のない狂気――。
それがこの集団には充満していた。
そして、今から僕も。
――完全にその狂気に取り込まれようとしている。
キャッスルウォールビル階。電力供給室。
僕は指示された通り、このビルの電気系統を担うという分電盤――
「ガチャリ」
巨大なブレーカーをその手で落とした。
なぜだかこの時の僕には、躊躇いというものが一切無くて。
さぁ――
「牛鬼の侵攻が始まる」
暗闇の中、それでも心中のどこかで、僕は助けを求めていた。