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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第六章 牛頭羅・ニュオズォーラ
172/287

大切/三位明崇


小梢との話は、六華の事を深く知る、良い機会になったと思った。まさか、弟を失っていたとは。


だから明崇をあんな風に脅したりしたのだろうか……


六華自身が感じていた焦りや不安――その甲斐なく仲間が13人も失われたのだ、その気持ちは、察するに難くない。


そのくらい六華は狂っていたのか。零士(おとうと)の喪失のために。


弟を失った、姉。欠けた家族のピース。



思い出すのはこの前の、電話越しの伽耶奈の泣き伏した、あの掠れた声だった。神薙を渡しに来たのも会社の人間で、伽耶奈は忙しく会いにこれなかったのだ。

汽嶋さんと先ほどした話が追い打ちの様に思い出される。


――俺がいなくなったら。

きっと伽耶奈も六華の様に、取り乱し、泣き叫ぶのだろう。もし逆の立場なら、狂ってもおかしくないとさえ明崇は思う。


他でもない明崇と伽耶奈は、世界で一人の姉と弟なのだ。

そして、こいつらも――


真夜、亜子、剛。この三人も、既に明崇にとっては大事な存在だ。家族というと大げさだし、あっちはその気もないのかもしれないけど。でもそれくらい明崇は、この三人の事を手放したくないと思っている。その事をすんなりと自覚できるくらい。何なら言い出せるくらい。明崇は彼らを好いてしまっていた。


以前の自分からしたら、想像もできなかった心境だ。



「アキ君、これ食べてみて?ほら!」

歩み寄ると亜子が突然、何かゼリー状のものをフォークに突き刺し、明崇に向けていた。つーかまた食べかけ……大方変な味がするとかなんとかで、明崇の反応を見て楽しみたいのだろう。


いつもなら礼儀に厳しい剛が諫めるところだが、六華が面白がっているので周りには、変に許容するオーラが出ていた。


「……美味しいの?それ」

取りあえず真夜に聞いてみる、が。

「食べてみれば?美味しいかもよ」

返事はにべもない。

「貸して」

フォークを手渡してもらおうと手を伸ばす、が。

「ん!」

なぜか、亜子は首を振る。そして背伸びしつつグイっと。明崇の口元にそれを、近づけようとしてくる。

――ああ、ああね。そういう……

しょうがなく、そのまま口に入れ、咀嚼する。

「うッ、んう!?……」

「はい水」

想像以上の味に、ついむせてしまった。それに亜子を含め周囲の参加者は大笑いし、真夜がしょうがないなぁとばかりに、水を差しだしてくれる。


周囲には以前、弛緩した緩やかな空気が漂っている――。

この時はまだ、平和だった。


そして水を受け取って、飲み干した。その時横目に、パーティの参加者が見渡せた。


日中韓の交流を目的としたパーティだけあって、そっちの国籍の人なのだろう。チャイナドレスを纏った長身の……いやどちらかと言えば大柄な女性。誰かもしれないその人と、目が合った。その瞬間に、明崇の直感が囁く。

あれは、まさか――。


「ふーん……チャイナドレスね。明崇、ああいうのがいいんだ」


そういうのを、見逃してくれる真夜ではない。そんな真夜の事を今は、ありがたく思う。

「真夜……あの人の顔、覚えた?」

「え、なんで」

「ちょっと待ってて」

直感か、それともただの勘か……。

――勘であってくれ。

その時――パーティ会場がすっぽりと、暗闇に包まれた。


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