警護開始/三位明崇
ガヤガヤと大勢の人の気配がする。その人込みの中に、明崇達はいた。
前にも後ろにも人、人、人……めまいがするほどに多くの人がいる。パーティドレスや礼服に身を包んだ彼らはやはりどう見ても別世界の住人だ。
明崇は思う。
――俺、変じゃないか……?
「浮いてません?俺……」
ついに聞いてしまった。
両隣、少し先行していたパーティドレス姿の六華と真夜が、同時に振り返る
「んーん、全然だいじょーぶ」
「気にしすぎだって。ちゃんとかっこいいよ」
明崇が着ているのは、それほどかしこまったスーツというわけではないのだが……羽織ったジャケットと落ち着いた色合いのネクタイも少し、いつもの明崇からしたらハイソぶった恰好だった。
「これ……ちょっと落ち着かないっていうか」
近衛家を出る前はあーでもないこーでもないと、真夜と六華に、正に着せ替え人形にされていた。
「いいから、ちゃんとピシってして?」
真夜が思い切り腕を組んでくる。すると肘当たり、柔らかい感触――。
「お、おい馬鹿」
「動かないの……」
真夜は上品な黒のドレスを、その体に纏わせている。胸元は開きすぎない程度に抑えられているが、それにしても真夜の女性的なプロポーションを、しっかり活かす作りになっていた。
すると六華が突然、明崇にこしょっと耳打ちしてくる。
「真夜ちゃんの、おっきいもんねぇ」
それだけ言って、ひらりと前に行く。左耳はこそばゆく、右ひじには先ほどから“アレ”があたっている。左右どちらとも気が抜けない。
本当これ、めちゃくちゃ疲れる……
明崇は二人に聞こえないように小さく――はぁ。とため息をついた。
既に夕刻。この広いパーティ会場に料理が運ばれてくると、背後で亜子が騒ぎ始めた。案の定、剛がそれを、たしなめる声も聞こえてくる。
「ふふ。亜子ちゃんって可愛いね」
六華が微笑ましいとばかりに言う。
また剛が後ろで、控えめに亜子を叱る声が聞こえてきた。
正にその時だった。
六華の背後、見切れたエントランスホール。そこを歩いてくる、一人のスーツ姿の男――。
その男に明崇の視線が、否応もなく吸い寄せられる。
間違いない――藤堂浩人だ。
なぜ、彼が。彼は警視庁捜査一課……殺人事件専門のはずだ。しかし見たところどうやら警備部の領域・警護任務にあたっているようだ。
しかしその疑問を解消する暇もないまま、パーティが始まる――。