双暁の迎え
その日の朝、明崇はいつもより早めに、その眼を覚ました。
窓際に立かけた馴染みの竹刀入れ。そこから白銀に輝く抜き身、真剣を取り出す。
神薙。
特別なチューンナップを施した今回の神薙は、刃を除いた部分のほとんどがマットブラックのカーボンで作られている。グリップしやすいように織り込んだカーボンファイバーを所々に露出させ、滑りにくい、吸い付くような形状を作り出していた。
「流石、伽耶奈だな」
人間工学も学んでいると言っていたが、これほどとは。
するともぞっと。ベッド側から衣擦れの音がした。
「ん……明崇?もう起きたの」
「おはよう真夜」
寝ぼけ眼を擦る、ネコの様な仕草。
「……おはよ」
そうだ。
「久しぶりにさ、稽古つけてくれないか」
指先を、温めておかないとな。
朝焼けが、ようやく明るく輝き始めた。藤堂浩人が現場に到着したのは4時50分。現在時刻は、5時丁度。
港区虎ノ門、キャッスルウォールビル。
正にビル群が壁のように連なり、その名の通り城壁の様な形で建つこの建物こそ。レセプションパーティと日中韓首脳会議の、正にその舞台となる場所だ。
そしてここが会場という事は、未だマスコミにも伏せられた情報だ。
「集合」
浩人、璃砂、汽嶋、高峰、石井。
互いに赤のバッジを見せ合う。このバッジの色はSPの間での潜入者のあぶり出しにもよく用いられるものだ。このバッジには複数の色が存在し、警護任務に当たるものにしか、付けていくバッジの色を知ることはできないという仕組みだ。皆で集まったこの場面で別の色のバッジを付けてきたものは、潜入者としてこの場で拘束されることになる。
「よし、行くぞ」
石井が歩き出す。それに四人は続いた。
このビルにすでに宿泊している、浩人達の警護対象のもとへと急ぐ。
ビルの隙間――太陽が顔をのぞかせる。
日中韓首脳会議前日の、九月九日。
レセプションパーティ開始まで、後、14時間――。