迫りくる/藤堂浩人
浩人は多くの事を聞かれたのに、璃砂には二言三言しか、彼らは質問をしなかった。
「下がりなさい」
結果二人とも、沖和正率いるSIRG十三係への配属とだけ伝えられ。そのまま警視庁を後にした。
今日はこれで、自宅待機。明日に備えよとの事だった。
「浩人さん」
璃砂が、帰り際に浩人を呼び止めた。なぜだか。その顔は晴れ晴れとしている。
「私、良かったです。浩人さんを守るためにあの時銃を向けて、本当に良かったと思います」
――こうやってまた一緒に捜査、できます。
「……何言ってるんだ」
そう怒気をはらんだ声で言うと璃砂は、寂しそうに、どうしてという顔をする。
「え、なんで怒ってるんです」
「お前は……俺なんかと一緒にいるべきじゃない。いてはいけない」
「なっ……」
璃砂の顔が、泣きそうなそれになる。
「あの時……腹を貫かれ死にかけるのはお前かも知れなかったんだぞ。お前にはキャリア警察官という未来もあったはずだ。なんで……なんで危険な事ばかり」
「わ、私は、ただ浩人さんと……た、ただ、い、一緒に……。あ、ああ。そうですか」
璃砂の目が、どこか暗い、陰ったそれになる。
「私なんかより、高峰さんがいいんですね」
――お邪魔虫なんですね、私。
捨て鉢な口調。背を向けて、彼女は歩き出した。
「馬鹿ッ」
とっさにその手を掴んだ。振り返った璃砂の目尻が濡れている。
俺は、俺はお前には。
「お前には、無事でいて欲しい。ただそれだけ……それだけなんだ」
そう言うと、先ほどとは違い、意思のこもった目で見上げてくる。
「馬鹿は……浩人さんのほうです。私だって」
――心配、なんですから。
いきなり抱きしめられた。彼女は小柄なのに、なぜだか浩人の体全身が、包まれるように熱くなった。
明日、そして明後日。浩人と璃砂が配属されたSIRG十三係は重要な役割を担う事になっている。
日中韓首脳会議における、参加国の首脳の護衛。
それが今回の、十三係の任務なのだという。
警備事案ともなれば警備部警護課、SPの仕事だが、そこは押して知るべし。
鬼人が関わる警護事案、という事なのだろう。
そして沖和正は、昨日こうも言っていた。
「近年、全ての鬼人が関わる動きすべてが、この重要会議に収束している」
つまりこの警護事案に関わる事で、浩人や璃砂の知りたい、その謎に肉薄することになるという事なのだろう。
――これで、良かったのだろうか。
とはいっても浩人と璃砂はその前日、つまり明日予定されている、レセプションパーティの警護しか、いまだ言い渡されてはいない。
「何も……危ないような事は」
起こらないはず、はずなのに。
帰宅して、品川の自宅のベッドの中。
眠る前、浩人の脳裏に浮かんだのは――
あの今にも壊れそうな、門田璃砂の泣き顔だった。