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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第六章 牛頭羅・ニュオズォーラ
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広域災害指定Ⅱ種/三位明崇


「ちょッ、待って。どういう事だよ」

「わ、私はッ。嫌なんだ……ッ。明崇がいなくなるのは嫌なんだ」

泣き始めた伽耶奈を電話越しに落ち着かせる。するとやっと伽耶奈は冷静に話し始めてくれた。

曰く。

牛頭羅の首領、その鬼人の名は。

牛鬼(ニュオグェイ)

牛鬼(うしおに)と書いて、中国語読みで、ニュオグェイ。

「日系中国人……角鬼系の鬼人だそうだ。実はその、鬼人危険指定が……」


危険指定。

二年前から沖和正が制定した、対象となる鬼人の、その一個体ごとの能力、単純に言えば“強さ”のパラメータだ。通常、危険指定Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ種の順に繰り上がり、さらに強力な鬼人は特Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ種と認定される。それより強力になると、もはや今の警察組織では特別対策チームを練らないと対応しえないため、二種の基準に分けられている。

特Ⅰ種(エクストラ)超え――強力な一個体の鬼人について、その単体の戦闘能力を厳戒態勢指定Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ種、そして周囲への甚大な災害的影響を広域災害指定Ⅲ、Ⅱ、Ⅰ種の二つのパラメータで測る、という事になっているはずだが。


特Ⅰ(エクストラ)超えなんだ。厳戒態勢指定はⅢ種、広域災害指定に至っては」

――Ⅱ種判定だ。


広域災害指定がⅡ種。それは判定された鬼人単体の影響力がもはや、天災レベルである事を意味する。


「明崇、お願いだ、そいつと遭遇したら絶対に……特に一人きりでの戦闘は避けてくれ」

いや。できれば。

「逃げて欲しい。牛鬼は多分今までの鬼人とは……おそらく次元が違う」



伽耶奈が明崇に向けたのはただの忠告ではない。引き留めるための、みっともない慟哭だった。今までもこうやって、伽耶奈には大きな心労をかけていた、かけてしまっていた。

でも、こんなに取り乱すなんて……。

「明崇……自分ではそうは思わないかもしれないけど、自分の事を大事にしないのは明崇の、本当に悪い癖だと思う」

責めるような口調。

「そんな事言ったって……」

――俺には、やるべきことがあるから。

「大丈夫だって。当日は近衛兵も、詩織さんや汽嶋さん――SIRGの皆もいる……俺だけが戦うわけじゃないよ」

慰めるように言っても。伽耶奈はどうしても、護衛には反対したいようだった。

「嫌だ……護衛止めるって言わない限り、神薙(カンナ)様渡さないもん」

「伽耶奈……」

沈黙。それでもお互いに電話は切らない。切りたくない。

「帰ってきたら……また、遊びに行こう」

「……」

「お台場とか、去年の学会以来行ってないよな。行こうよ。皆でさ」

「イヤ」

もう一押しか。と思ったら、そうでもなかった。

「……焼き肉行きたい」

「焼き肉?」

「うん、そう。焼き肉」

「分かった、行こ?皆でさ」

「……うん」

庭に一陣の風が吹いた。優しい、夏をとっくに忘れた涼し気な夜風が、頬を撫ぜる。

「ちゃんと……帰ってくるよ。大事にするから」

――自分の事も。

最後まで言い訳がましくなった。それだけが少し、電話を切る前の明崇の後悔だった。



そこで庭に、他の人の気配があるのを感じた。

「伽耶奈さんに報告?」

花壇越し、六華に貸してもらったのか、ナイトガウン姿の真夜だった。いつもの、からかうような笑顔。それにしても会話の内容は聞かれて無かったはず。相変わらず鋭い。


「真夜はさ」

「うん」

彼女が頷く。髪が揺れる。それだけの動作がなぜこんなにも。


牛鬼。広域災害指定Ⅱ種――


「……何?」

俺が死んだらどう思う?やっぱりそんな事聞けない。

「なんでもないや」

「何それ」

駆け寄ってくる。ふわりと明崇の横に並ぶ、彼女の足取りは軽かった。


真夜も剛、亜子も。レセプションパーティに出席はするが、当日には、いないのに。

敵に襲われる心配なんて無いはずなのに。

どこかこの戦いで、何かが壊れてしまうような――


「今から四人で大富豪しよ?明日はお休みなんだし。亜子と剛も、待ってるよ」

「……うん」


何故か、そんな、予感がした。



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