絢爛な夜の庭で/三位明崇
作品評価が88ポイントになりました!この作品を読んでくださっている皆さんの存在が励みです。ありがとうございます。これからも自分・吾妻峻なりに、納得できるものを、そして皆さんに楽しんでもらえるものを書き続けられたらいいなと思います。
それでは本編をお楽しみください!
「三日か……」
つまり明後日。ギリギリだ。
ゆっくりしていいと言われたので、明崇は深夜、一人で近衛家の庭に出ていた。贅沢な眺めは夜に見てこそは映えるのかもしれない。眺めながらそんな、月並みな感想が思い浮かぶ。
スマートフォンを取り出す。
慣れた操作で、明崇は義姉の電話番号をタップする。
ツーコールもしないうちに、彼女は電話に出てくれた。
「も、もしもし……明崇、だよな」
伽耶奈の声は上ずっている。こんな時間に起きているのは、少し義弟としては心配だが。
「うん、夜遅くにごめん」
「あ、いや、気にしないでくれ。私も退屈していた。すごくすごく、退屈してたんだ」
彼女の声色は久々に弟の声を聴いたからだろうか。若干の嬉しさが滲んでいるように聞こえた。この前筑波への出張から帰ってきてからも、そういえばまともな会話はしていない。
「なんというか……その。神薙の調整と再構成を速めて欲しいんだ。明日までには欲しいんだけど、頼めるかな」
明崇はサミットのレセプションパーティも護衛しなければならないという事、そしてその前日、つまり明日までには、神薙が手元にあるとありがたいと、そう伝えた。
「うん。いいぞ」
伽耶奈はあっさりと了承した。
神薙は金剛骨でできた、正に傷つくことない最高峰の刃だ。しかし金剛杵であるが故の欠点も抱えている。当然刃以外は、金剛骨以外の物質で構成しなければならないからだ。今回はその他の物質を、ある程度重量がある強化カーボンとそれに準じた炭素繊維で、とオーダーしていた。
「ごめん……いつも伽耶奈に頼ってばっかだ」
そうするとははっと快活に、伽耶奈は笑う。
「何言ってるんだ。まだまだ頼ってるうちに入らないぞ。もっとお姉ちゃんをこき使ってくれ」
そういう事、言わないでほしい。
――また、甘えてしまいそうになる。
「それはそうと明崇」
伽耶奈が緊張した声で告げる。
「本当にその護衛、大丈夫なのか」
「……どういう事?」
伽耶奈は何か、知っているのか。
「確か想定しているのは華僑系マフィア・牛頭羅、だったよな。私なりに調べてみたんだ。ちょっと待っててくれ。あ、いや、時間は取らせないぞ?」
ガサゴソと、電話越しに物音。何か書類が、バサッと落ちるような音も聞こえる。
「ね、姉ちゃん?焦らなくていいから……」
「あ、焦ってない!」
あ、見っけと伽耶奈が言ったのは、それから少ししてからだった。
「……」
しかしその書類を手にしてからか、伽耶奈は一瞬、無言でいた。どうしたのだろう。
しかしほどなくして、しゃべり始める。
「明崇……牛頭羅を取り仕切ってるやつらの事……その鬼人の事、ちゃんと知っているのか」
知っているかって。そりゃ。
「知らないけど」
「明崇、無理は言わない。お願いだ」
――今回のサミット護衛から、手を引いてくれ。