日中韓首脳会議/三位明崇
六華が再びその部屋を訪れたのは、四人全員が入浴し終わり部屋で一息ついていた、丁度夜九時を回ったころだった。
「ごめん、お待たせ」
六華はすぐ寝るつもりでいるのかナイトガウンを羽織っていた。良家のお嬢様らしい、品のある格好だった。
「じゃ、作戦会議、始めよっか」
「まず首脳会議の内容だけ説明しておくね?」
首脳会議。言葉の通り山の頂、頂点から名をとった、諸国政府のトップが集う最高会議。
「日本は現総理大臣・宇田川幸一……は知ってるよね?」
知っている。きっと亜子でも知っているだろう。例年変わりやすかった日本政府のトップの交代劇は、少し前から落ち着いたと聞く。協調的かつ平和的な戦略をとり、“なあなあ外交”と揶揄されることもあるようだが、むしろそれくらいしか批判される要素は見当たらない。日本国の精神を体現したトップと言われている。
「中国は李・橙明……確か中国国務院総理。後韓国側は、女性で有名だよね。王・朝寧大統領。四日にはこの三人が来日する。基本的にはこの三人を護衛するのが近衛兵と、警察上層部の最優先事項、なんだけど」
剛と真夜はしっかり耳を傾けているが、亜子は何が何だか、という顔をしている。亜子は数学の授業の時、よくこういう顔をする。
――ただ問題がもう一つあって。
「三日の、レセプションパーティ。この日は、それぞれの国のビップが集まる、日中韓の大げさな親睦会みたいなものと捉えておいて。実はこの日が、微妙っていうか……」
「微妙……そこに仕掛けてくる可能性も、あるってことですか」
六華が難しそうな顔をする。
「んー。ほとんどの人が、限り無くその可能性はゼロって思っているみたい。それぞれの国のトップが集まって、鬼人対策の方向性を会議する、その当日を狙うのが奴らのこれまでのやり方。牛頭羅って派手好きで、外交的にも目立つのを好むタイプの鬼人集団なんだ」
――だから当日にかなりの人員を割くって。
「それだけじゃない。レセプションパーティの会場はどの報道媒体にも載ってないし、国内だったら近衛家の人間以外、その会場を襲撃以前に、知る事すらできないのは確かだから……それも相まって、ね」
つまり三日の警備は、恐らく思っている以上に手薄の可能性がある……?
「ただ……それでも近衛兵は常駐しているんですよね」
「うん。牛頭羅側のメリットを考えてみればそっちに来る可能性はやっぱりゼロだし。結構華やかで、楽しい感じのパーティだから。できればこの機会に、登田君達にも参加して欲しいしね……うん、やっぱり私の考えすぎかも」
「うーん、難しくて亜子わかんないや!寝よう!」
亜子が耐え切れず叫んだところで、作戦会議は終了となった。