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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第六章 牛頭羅・ニュオズォーラ
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淡い思い出/藤堂浩人

高峰詩織。

浩人にとって彼女は知り合い以上の存在。

彼女とは高校の同級生。当時浩人にとって、一番仲の良かった同級の女子生徒だった。

――浩人クン。

あの頃彼女は浩人の事を、そう呼んでいた。

多分お互いただの“仲が良い”ではなかった。それ以上だったと思う。

中高生時代、全くもって女子と関わりが無かった浩人の、ただ一人の、青春の思い出だ。


「そうやって、見てくれる人もいるもんだよ」

――ほら、今の私みたいに。


初めて彼女と会話したのは、夕暮れの斜陽が射しこむ教室。浩人は当時イジメ問題のあった浩人のクラスで、その首謀者の男子生徒と大立ち回りをやって見せた。普段暴力的な事はしないタイプの浩人だから、相当、卑劣なヤツだったのは覚えている。

夕暮れの教室。教師にすら糾弾され部活停止、佇む一人ぼっちの俺に。

話しかけてくれたのは――高峰詩織だけだった。


覚えている。


一緒に近所の夏祭りに行ったことも。

部活の試合、大声で応援してくれた彼女の事も。

二人きりの教室でどちらからともなく唇を合わせた事も。


それとも浩人だけだろうか。

詩織は結構モテたから。

浮いた噂は無かった彼女だが、彼女にとって浩人はきっと、複数の中の一人の男……だったのだろう。

――震えてるぞ。

彼女の銃口を押し付ける手が、震えている。その震えが忘れられない、忘れるわけないと、浩人に訴えかけているようにも感じる。

もうそんな彼女を責める気持ちは。浩人の心から消えていた。


高峰が警察組織に属することになったのは――きっと最初から警察官を目指していた、浩人の影響があったのは間違いないと思う。

彼女は高校在学当時から、ライフル射撃競技の名手だった。それで彼女は準キャリアとして確か、警備部警護課……つまりSPとして警察官になった。

しかし彼女と次会う頃に聞いた配属先が、確か小金井署と聞いて、飲みにでも誘おうとそこを訪れた時。彼女はそこにはいなかった。携帯の番号にかけても通じない。


今思えば、あの頃すでに、SATに配属されていたのだろう。


女性でSATに配属される例は今までには無いが、当然そのことは周囲は愚か、家族にすら連絡を取ることは許されない。

――配属先も、でたらめな部署に所属している扱いになる。

警備部、公安部とは、そういう組織なのだ。


そう、彼女は狙撃の名手。

確か浩人と同じ大学に通っていたころには、ライフル射撃では全国ベスト二位の成績をたたき出していた。

まぁ背中に拳銃を押し当てている時点で、外すわけもないのだが。

だがこの状況、相手も恐らく想定していないのが。

浩人も拳銃を持っている、という事実だ。


実はこの前の捜査会議から。実は拳銃の携行許可が出ていた。そのため浩人の懐には、現行の拳銃・ニューナンブが挟みこまれている。

しかしSATと言えばそれ以上、多弾装の拳銃、グロックやUSPを装備しているはず。

それでも、無理だと分かっていても……

ここは譲れない。


思念で胸中を満たし、懐へと手を伸ばす――  

そう……決意した時。


「動かないでッ」


ぎこちなく視線を左へ移す、浩人の目に映ったのは。

足を震わせ涙目、それでも拳銃を構える。

「拳銃を、下ろして。浩人さんから離れてください」

門田璃砂の姿だった。



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