迷いもがく/藤堂浩人
藤堂浩人は未だ、迷っていた。
三位明崇があの事件に関わっているという事実は、警察内部では触れてはならない弱み、いわばアンタッチャブルだ。それを。
“日宮高校1-B、三位明崇、15歳。彼がこの事件に深く関わっていると、私は見ている。”
一介の記者にかぎつけられていた。しかも。
あろうことかその身柄は、おそらく反社会勢力側にある。
それを浩人は、誰にも言い出せずにいた。あれ以来、璃砂には口外しないよう口止めはしている。彼女もその事の重大さは認識しているようで。この前からどこか、元気がない。
それにしても気になって。
浩人は璃砂と共に都築実の勤務先、潮汐新聞社を訪れていた。
「御手洗篤史さん、いらっしゃいますか」
手帳を示す。
「警視庁、捜査一課……警察です」
御手洗篤史は壮年の、ダンディなチョイ悪オヤジ、といった風体だった。
彼は潮汐新聞でも有名な、警察関係者との強い繋がりを持つ記者だ。行方不明者の都築実、そして新橋の殺人事件の被害者、槻本武雄の共通の同僚。浩人は彼に、探りを入れてみることにした。
「捜査一課……八係、ね」
名刺を受け取るが、それをすぐデスクに置く。歯牙にもかけない様子だ。
「来てもらって何ですが……」
――私に何を聞きたいんです?
その顔は確かに、困惑しているように見える。だがどこか……わざとらしいような。
考えすぎだろうか。
浩人はゆっくりと、その問いかけにこたえる。
「貴方の記事を、読みました。渋谷で決着した、早稲田通り沿いの連続殺人事件についてです」
――貴方はあの決着に、何の疑問も抱いてないのですか。
「疑問……」
「被疑者射殺とか、そういった事に、恣意性やわざとらしさ、嘘っぽいというような印象を、持ったことはないですか」
そういうとこらえきれなかったのか、篤史は笑い出した。
「おっかしいなぁ、何でそれを、警察に言われなきゃならないの」
「それは……」
「警察を疑うのは一種、我々の仕事でもある……でもねぇ。ちょっと自意識過剰、なんじゃない?そんな事いちいち言われるとさぁ」
――本当に何か隠されてるんじゃないかって、疑いたくなるよ。
もう浩人はそれだけで、一言もしゃべれなくなってしまった。
俺は、焦っていたのだろうか。
自分でも、何がしたかったのかが分からない。ただ、強く思ったのだ。
――三位明崇には、背負わせない。
御手洗篤史とは全く、実のある話はできてない。収穫はゼロ。軽くあしらわれた形となった。
「門田、ここでいいか」
流石に彼女の自宅へは遠いので、タクシーを拾わせる。
「あの……浩人さ」
何か言おうとする彼女を、無理やりタクシーに押し込む。タクシーが動き出すと車内の彼女の姿が、小さくなって消えていく。
「よし」
そう……ここからは彼女とは、別行動だ。