会談/三位明崇
「剛君と亜子ちゃんは、先にお部屋に行っといて?」
これまた広い玄関をくぐりしばらく歩いて、やけに広い廊下に出た後、六華が言った。
「後は小梢が案内してくれるから」
彼女は小梢という、和やかな雰囲気の、しかし笑顔の似合う、幼い顔の女性を連れてきた。
彼女は近衛家の、使用人なのだという。
「俺たちは……」
「うん、パパが三位君と話したいって」
しかし解せない。
「真夜も、ですか」
「うん……多分、直感だけど」
――真夜ちゃんが、傍にいてあげた方がいいと思う。
隣でハッと、真夜が息をのんだ。
明崇が真夜と共に連れてこられたのは、廊下とは違う洋式建築、絨毯の敷かれた息の詰まりそうなほどに広い部屋だった。
中心にあるのはアンティーク調の長机。そして明崇たちと机を挟んで向かい合う位置に――
男が一人。座っている。
「やぁ、明崇君」
初対面にしては馴れ馴れしい。その初老の男がカチャリと手に持つフォークを置く。
この人物が……御三家の一角、現近衛家の当主、近衛一、か。
「六華も、ご苦労だったね」
にこやかな表情だ。しかし明崇の横を一瞥し、その表情が鋭く、冷たいものに変わる。
――脇にいる子は……誰かな。
その眼には分かりやすい、排他的な感情があるのを、明崇は瞬時に見抜いた。
軽蔑。
「真夜。桑折真夜。明崇の付き添いです。明崇が一人じゃ、危なっかしいので」
明崇が何か抗議しようとする前に、真夜が冷静な口調でそう言った。
その視線が、一のそれとぶつかる。
彼は根負けしたように目を逸らし、そしてまた、笑顔を作る。
「それは失礼した。そうだね。じゃあ彼女にも」
後ろ手に指さしジェスチャーをする。机を見ると明崇達に近いそこには、二人分の夕食が置かれていた。恐らく真夜のものも用意してくれる、とそういう事だろう。
それにしても一の背後の使用人。その気配に気が付かなかった。
「最初に、説明していただきたい事があります」
真夜の料理が置かれてすぐ、明崇は言った。しかし、その先を遮られる。
「いやその前に」
――まずは食べよう。
明崇と真夜は戸惑いつつ、六華に倣って席に腰かけた。
運ばれてくる料理は、どうやらコース形式であるようだった。
明崇の今までに見たことしかないような、何とかのムニエルとか、何とかの何とかソース添えとか、そんな名前がついていそうな料理ばかり。
六華がそれを綺麗に口元へと運ぶのを見て。明崇もようやく、食べ進める決心がつく。
一が切り出したのは、丁度冷製のスープが運ばれてきたころだった。
「説明してほしい、か」
――そう言ったね。
明崇はスプーンを置き、前を向く。近衛一と、目が合う。
「はい」
「はは、食事は続けながらでいいよ」
「分からないんです」
「何が、かな?」
眉をひそめ、一は逆に問い返してきた。
「提案は娘……六華から既に伝えてあると思うけどね?」
――私達を、守ってほしいんだ。
それは、確かに聞いた、けど……
「事実、俺に守ってもらう必要性、無いと思うんですけど」
明崇は正直な意見を、素直にぶつけることにした。
この屋敷に足を踏み入れてからもひしひしと感じる。近衛家が巨大な財力と、権力を持っているという事は、どうやら事実。明崇自身彼らが御三家を名乗っていることに、全く疑いを持っていない。
思い出す。明崇に襲い掛かった近衛家の鬼人は、十分すぎるくらいに訓練されていた。
そう、俺がいたところで――。
「何の戦力にもなりはしないと思いますが」