日宮高校体育祭/三位明崇
九月四日、日曜日。
日宮高校体育祭、その当日だ。
今日は朝からその、体育祭準備のセッティングに追われていた。保護者用のテントや貴賓席、本部テントの立ち上げを手伝う、というのが一年男子の仕事だ。時刻は7時50分。もう少しすれば、体育祭自体のプログラムがスタートする。
この高校の体育祭、そのプログラム構成自体は単純だ。赤組と白組に分かれて様々な競技演目をこなし、最終的にその得点を競う。昼頃に行われる真夜と六華の参加する応援合戦も大きな得点になるため、大きな見どころになるという。
1-Bは赤組に振り分けられている。そのため明崇と真夜、亜子はその赤組本部テント前に集合していた。この学校の体育祭は独特で、赤組白組の両組の本部テントは休憩所、その前には棚田のように階段状の櫓があり、そこに上がって観戦、応援できるようになっている。
「よーし!皆がんばろー!」
櫓前に集合した赤組メンバーを前に、生徒会長兼、赤組団長の近衛六華が元気よく飛び跳ねている。
――思っていた以上に元気そうだな。
そのつぶやきに、隣の真夜が敏感に反応した。
「やっぱり会長が心配?明崇」
「心配って言うか……何かな」
「明崇は優しいね……全くもう」
そんな事を言う真夜だって情の深い性格をしている。この前から六華の事も、多少は心配して気になっているように、明崇には見えた。
「ていうか」
「ん?」
「今日の。今の私を見て、何かないわけ?」
真夜がいつも通りの、からかうような微笑を浮かべる。しかし目に見えて分かる以上にその眼は、何も言わない事への不満を伝えてきているように感じる。
そう、どうやら女子という生き物は、こういうイベントの時こそ容姿に気合を入れる傾向にあるようだ。今朝の1-B教室も、主に女子の中で、競技中どのような髪形にするかで盛り上がっていた。
明崇は自分から……珍しく自発的に真夜の正面を向いた。一般的な女子の髪形どうこうは大して気にしないタイプの明崇だが、真夜の見てほしいという気持ちをないがしろには、できない。してはいけない気がした。
「ちょ、ちょっと明崇……え、いきなり何」
そうするととたんに顔を赤らめ、恥じらうように逸らす。
今日の真夜はいつものショートカット、というわけではない。それには朝、会ってから気づいていた。でもこうやってまじまじと観察すると彼女らしい気合の入れ方が見て取れた。
「ちょっと明崇……恥ずかしいよ。そんな事言って、大したことはしてないし」
いつもの真夜の髪型はショートボブ。今日はその自慢の黒髪を両サイドで編み込んでいた。そして赤いハチマキをカチューシャのように括り付け、結び目は蝶々結び。
確かにすごく似合っているし、真夜の綺麗な黒髪も、編み込むと華やかな顔のパーツが一層際立っているように見える、それにしても。
――どうやってんだこれ。
本当、どうやったらこんな髪形を作れるのだろう。
「……すごいな」
「そ、そんな事、ないよ」
ここぞという見せ場での女子のファッションに。明崇は素直に関心してしまった。
「ね!アキ君、亜子は?ね、ね、どう?」
ぐいっと、乱暴に腕が下方に引っ張られる。その勢いの良さに危うく、明崇はバランスを崩しかけた。
視線を向けるとそこには、どこか満足げな亜子の姿。
「真夜ちゃんにしてもらったの。いいでしょー」
――いいでしょー、はないだろ。
亜子も髪を編み込んでいるが、夏を経てその亜麻色の髪は中々に伸びていた。前髪を残し後ろで括る、ポニーテール?というやつなのだろうか。活発な印象の髪型だ。
今までよりも新鮮で、凝った髪形だった。真夜がずっと、亜子の髪の毛をイジっていたのは見ていたから。ここまで複雑なのは仕方無いだろう。
「うん、似合ってるって、うん」
「……何それぇ」
――すごいなって言ってくれないんだ。
「お兄ちゃんは、何も言ってくれないし」
「いや、俺は素直に褒めてるって」
剛は……あれだ。照れ臭いだけだろ。