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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第六章 牛頭羅・ニュオズォーラ
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積念と後悔/近衛六華

「ん……」

あれ、私落ちちゃってた……?

窓から見える、その空が白み始めている。近衛六華はその眩しい朝日から逃げるように、体をベッドから起こした。

「嫌われちゃった、かなぁ……」

広い部屋の真ん中で体操座り。自分の肩を掻き抱く。

重圧、もあったかもしれない。近衛家を引っ張って、皆をまとめて、守って……そのためなら、どんな手段も厭わない。だから追い込んで、その実力を確かめてから。その方が優位に、交渉できるかもしれない。そう、相手の都合も考えず思い込んでいた。その結果。


三位明崇を、傷つけてしまった。


「ちょっと()なヤツ、だったかも。私」

いや、多分ちょっとじゃない。すっごく嫌なヤツだったと思う。

ヤバいな、失敗したな。そう思い当たった時には既に、三位君は泣きそうな顔をしていた。怒りもあっただろうけどそれ以上になんか悲しそうで、その表情に、やっと。酷いことしたんだなって気づいた。

「うぅーヤバい」

うん、これは中々立ち直るのが大変そうだ。彼の子犬のような泣き顔が、きゅっと胸を締め詰める。

「登田君が説得してくれなかったら、もうダメだったな……」

それでも。YESの返事はもらえていない。結局泣いて、泣きついて。あれって今思えば、とっても(ずる)いと思う。


――本当、狡い女だよね。

いい女にはなれないな。なんてふと思う。


「でももう誰も、失いたくない」

ベッドの脇、写真立て。それに映る私の隣の誰か。その顔には丁度、光が反射して見えなかった。

私の、大事だった人、大事なただ一人の弟。彼はもう、いない。

「頑張る、私、頑張るから」

――零士君。

今思い起こせば三位明崇の泣き顔は、零士にとても似ている気がした。



「六華様、起きられてますか?」

マズい。小梢(こずえ)が起こしに来ちゃった。

「……ん、は、はーい」

涙を拭う。声は、掠れていないだろうか。

「起きられてるんですね?朝食の準備、できておりますよ」

小梢は近衛家の使用人だ。年は六華よりも上だが、六華よりも子供っぽく、人懐っこい魅力的な女性。

ドアを開ければ彼女の、はつらつとした笑みに迎えられる。

「小梢おっは。今日の朝ごはんはなーに?」

無理に明るく振る舞うのは、六華の一番の特技と言ってもいいかもしれない。

「ご自分で確かめられては?」

この近衛家にはざっと20数人の使用人がいる。屋敷の規模も大きい。いわゆる豪邸だ。

といってもその廊下は幅が広いといえど、なぜか和風、木板の渡り廊下だ。そう近衛家の屋敷は中途半端な、和洋折衷様式で建てられている。

「あれ……パパとママは」

「先に出られましたよ?」

あっそ。


――三位明崇を手に入れろ。彼なら近衛家を救える。


父の感情の無い、冷たい声を思い出す。

六華の父、近衛一(このえはじめ)は外務省に勤める外交官、官僚だ。最近は日中韓首脳会議のためにずっと家を空けている。

――だからこそ、三位君の協力が必要なのは……事実、だけど。

「小梢ー、一緒に食べようよぉー」

こんな気分だから。一人で食べるのは、さすがに少し嫌だった。

「え、しかし」

そう言いつつ、いつも一緒に食べてくれる。そんな些細なところが小梢のいいところだと六華はいつも、そう思う。



「六華様、例の件、随分ご無理されてるんじゃないですか」

食後、暖かいアッサムティーを飲みながら。小梢は六華に、朝から聞きたかったであろうことを聞いてきた。

「……大丈夫だよ」

強がる。それは近衛家の次期当主として、六華に染み付いた癖だった。でも小梢も、そう簡単に引き下がってはくれない。

「六華様……貴方は十分、頑張っておられます。零士様がお亡くなりになってからも、その重責を一身に背負って。その重さは、私のような者には計り知れないものと思います。しかしどうか……ご無礼を承知で言わせていただきます。周りの声に惑わされず、自身の心を信じてください。そうすればどんな結果になろうと、きっと、後悔はされないかと」

馬鹿。そんな事言われたら、また泣けてきちゃうじゃない。

でも……

お願い、まだ、強がらせて。

「うん。そうだね。私見えなくなってたよ。多分皆をこれ以失うのが……本当に怖くなっちゃったの。(タキ)欣時(キンジ)、零士君……失った仲間の気持ちを勝手に想像しちゃってたのかも」

だからこそ。

「もう、迷わないよ。私自身の言葉で三位君にぶつかる。きっと分かってくれる」

自分で思う最高のキメ顔。小梢は強がる六華に、母親のように微笑みかける。

「六華様、どうか、ご無理はなさらないで?私は旦那様、奥方様ではなく貴方、ただ一人のご主人様にお仕えしたいと思っております」

む。これは、かなりグッと来ちゃったな。

「ちょっとぉ……危うく惚れちゃうところだったじゃない!?」

「あはは、六華様、何をおっしゃいますか」

――私はとっくに、六華様にぞっこんでございますよ。

「うぉ、言ったなぁ!?」

そんな事言うならもう、小梢は何処の嫁にもやらないぞ!


バカげた事を考えながら。私は決意する。


そうだ。次こそちゃんと彼と話そう。



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