調停/三位明崇
「近衛六華、あんたの頼みは、聞けない」
「あらら……」
夕日が落ちていく。互いに陰っていくその表情は、互いの間に生じた溝の深さを感じさせる。
その沈黙の中、口を開いたのは……。
「一旦……二人とも落ちついたほうがいい」
剛だった。
「剛……俺は」
「分かってる」
明崇が何か言おうとするのを、再び剛が制した。
「会長さん。正直言って貴方が悪いと思います。明崇はそれこそ腕が立つかもしれませんが、争いは好まないヤツです。そもそも明崇のファンだとか、応援団に参加して欲しいとか、不自然に明崇に近づいたのには、それなりに事情があるんじゃないんですか」
それを聞いた六華の表情が、驚きの色に染まる。
「ちゃんと謝罪して……訳を話せば納得してくれます。ここまでの事をしたってことは、相当……切羽詰まってるんじゃないですか」
唇をかむ、その表情。近衛六華はこんな顔もするのかと、明崇は少し意外に思った。
そして彼女は、その眼を伏せる。
「大黒君……、下がってて。もう今日帰っていいよ」
「いや、しかし」
「いいから!」
鋭い口調。こんな声は、聴いたことがない。
「後ろの、ジンさんとイワミ君も。私のせいで傷つけて……ごめんなさい」
息を吸い込んだ。深呼吸だろうか。しかし吐き出す前にそして唐突に、ぽつりと、ある言葉を口にした。
「死んだの……」
「えっ」
その残酷な告白に、敏感に反応してしまったのは亜子だった。しかしそれを気にせず、彼女は続ける。
「私を守って、今年に入って13人、近衛家の人間が、死んだわ」