正体/桑折真夜
階段を、一段飛ばしで駆け上がる、三階の渡り廊下を見渡すとそこに、複数の人影が見えた。
どうやら三人。
一人は距離を取り、肩を押さえながら、渡り廊下の端っこでうずくまっている。
そして残りの二人は、どうやら組み合うようにして密着して立っている。
制服を突き破り背中から飛び出した紫色の鱗に覆われた、腕のような形の触手、そして腰の下から伸びた蛇のような尻尾。
それが、がっしりと獲物を捕らえるように、組み付いているのだ。
「明、崇……」
呼びかけた、真夜の声に、組み合ったうちの“組み伏せている方”がぎこちなく振り向いた。
明崇に向かって歩み寄る。後ろに亜子と剛を連れて、連絡通路へと踏み出したその時。
「はいはーいそこまでー」
背後から、近衛六華の、間延びした声が響いてくる。振り返ればその姿の隣に、あの、大黒という男子生徒の姿もあった。
「いやーやっぱし明崇君はお強いね~。いきなり襲うように指示したのは私だけど……」
――許してちょ。
襲う……襲わせた?
「近衛、六華……あんた明崇を」
「うん、襲わせた。まあそれには海よりふかーい事情があるわけだけど」
先ほどとは打って変わって、落ち着いた、大人びた、全校生徒を前に演説を始めようとするかのような、その声。
「これはー、そうだね。オーディション?君がふさわしいかどうか」
「……何に」
――ふさわしいって?
そこで明崇の、やけに低い声が響く。真夜でも、こんな低い声音を聞いたことはなかった。
明崇が、押さえていた男を突き飛ばす。男は抵抗せず、その場に転がった。
「今ここで、釈明しろ」
向き直った明崇がこちらに向かってくる。その眼は真夜を通り過ぎ、近衛六華に向けられていた。
「おい、明崇落ち着けって」
真夜の後ろにいた剛が、引き留めるように言う。明崇のいつもとは違う口調に、若干戸惑っている、そんな感じの声だった。
「そ、そうだよ……アキ君どうしちゃったの?」
亜子も先ほどから、何が何やらという表情で、明崇に声をかける。
「説明する気がないのなら、貴方がどうなるかはわかりきってる」
――貴方程度、二秒で殺せる。
明崇に、どうやら剛と亜子の声は聞こえていない。それとも聞こえないふりをしているのか。
そしてその明崇の脅しに。近衛六華はまた、悠然と微笑んで見せた。
「うん、それはさ。明崇君なら私を殺すのは訳ないと思うよ?でもそんなことしちゃうと」
――ほら、後ろの二人。
「近衛家……私の家族が、黙ってないかなって?」