血池に潜む/三位明崇
寝ぼけてられない。
明崇に迫る、二つの影。その中心に立ち、半身で左右、両方が迫ってくるのが見える。
あの……心の奥底――血みどろの家から聞こえる衝動にも似た声。あんなものに、支配されるわけにはいかない。
まだ、俺“だけ”でやれる。
――真夜にも顔向け、できないしな。
「……なめるな」
――始翼。
明崇の肩、その肩甲骨から音を立てて小さな翼が広がる。
その両翼から雷撃を、噴出。
「「!?」」
二匹の鬼人、その攻撃が、空を切る。雷撃の推進力で、素早く後ろに下がり、そのまま飛び上がる。
「ッ……」
宙に浮きながら自身の体を回転させ、予測できない動きで二撃目を躱す。
迫ってくる鬼人の動きが、どこかスローモーションになる。
渡り廊下に宙を舞う、自分自身の影が踊っている、それを横目に見ながら。
尻尾を、一点をつくように繰り出す、狙いは、右手側の鬼人の肩――。
「ガッ、あァッ」
突き、刺す。
肉を断ついやな感触が尾を引くように神経を伝ってくる。それに後ろ髪を引かれつつ――。
始翼の雷撃を励起、勢いよく、再び渡り廊下に着地する。
再び、あの男と対峙。今度こそ銃ナシだ。
飛んでくる拳を絡めとる、右腕の神薙を放り投げ、右肩の掌状の始翼でつかみ取る。
両手でつかみにかかる。悟られれば抑え込むことは難しくなってしまう、だからこそ、慎重に――。
まず襲ってくる連続した軽い一撃。それをいなす。
できるだけ直撃は避け、柔軟な掌でダメージを殺す。
そして焦れて放たれる大振りのストレート――
「捉えた」
腕を取り押さえ引き付ける。明崇の右手でそのまま、蛇のように巻き付き、もう一方の腕も左腕で絡めとる。
そして神薙をもつ、三本目の腕ともいえる始翼で。
「今度こそ……動くな」
刃先をその喉元に当てた。
「く、ンッ」
しかし何とその男、この状況で抵抗して見せた。まだこの段階なら逆転できる、そう思ったのだろうか。
馬鹿だな。
躊躇なく、刃で頸動脈付近を抉る。一秒もかからず、殺せる。
「ッ……暴れんなよ」
その喉元に赤い血が、たらりと垂れて首元にいびつな血池を作る。
それを見る明崇の目には、自覚した以上の凶暴な輝きが宿っていた。