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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第五章 近衛兵・ジンウェイビン
141/287

角か牙か/三位明崇

鬼人。


それには大別して、いくつかの種類がある。


俺・龍鬼(さんみあきたか)や先の殺人事件で暴れまわった鎌鬼(とりごえみつる)


これらは実に少数派、全人口の鬼人遺伝子の5%にも満たない。


そして大部分、95%を構成しているのが。



牙の鬼と角の鬼。


鬼、伝承的にその特徴は発達した犬歯、そして額から突き出した角といえる。


単純な話。


牙が大きく発達するのが牙の鬼、角が巨大に額から伸びるのが角の鬼というわけだ。


そして明崇が今、目にしているのは正に――

典型的な牙の鬼だ。


「ッあ……」

何度目か分からない。今度こそという一撃を回避される。そして一対一、その最中、上空を何かが通り過ぎる風切り音がした。


――クソ。


二人目。少しばかり開いていた明崇と一人目の間に、的確に尾を落としてきた。


何とかバックステップで回避。だが今度はその尾を利用し棒高跳びの要領で宙を舞い、先ほどまでいた反対側に、着地。


――挟まれた。


二人とも、その鬼人としての特徴は、酷く似ていた。


発達した口元から覗く犬歯。毛皮のように析出した、明崇のそれとは大きく異なる形状の尾。

その尾に始まり、下半身で大量に発言した毛皮のような金剛骨。そう“牙鬼の鬼人”だ。

その姿は、一見すれば鬼というよりは、小さく発達した角が耳にも見えて獣染みている。



少し、分が悪い。


明崇は挟まれたこの状況に対して、冷静にそう判断した。


大振りの尾の一撃は、その大きな動きから躱しやすいが、高い威力を持つのは間違いない。挟まれたこの状況で上手くタイミングを合わせられれば、明崇といえど回避するのは困難だ。


なら――こちらも少し考えて行動しよう。


「……フッ」


最近は、注射を打たなくとも、意識するだけで鬼人化できるようになった。心の中のスイッチを押すだけ。それだけで、明崇の頬に亀裂を入れるように、金属の鱗がピシピシと這って行く。


――来た。


左右から二本の尾が、明崇を狙ってくる。

到達が早いほうの一撃を。

「ガァッ」

こちらも尾で、巻き付けるようにして食い止める。

「ンッ」

そして背後からの二撃目は。



バチバチッと、電流を神薙に這わせる。明崇の紫色の金剛骨、その励起のしやすさを利用して即席で作りだした電流は、明崇の強力な武器の一つ。


そのまま上体を逸らし避ける、神薙で、明崇を仕留め損ね、目の前を通過する尾を、切断――。


「ンアッ」


尾を切られ、その痛みに佇む。後、一人だ。


「終わりだ」


巻き付けた一体の尾を、グッと引き寄せる、ぐらついたもう一人の敵に、迫る。


「シッ」

一撃一撃が、確実に敵の体の各所を抉る、戦意を喪失させる、それで十分だと思った。


「大人しく……しててください」

――首、落としますよ。


腰を落とした男に、明崇は神薙の切っ先を突き付けた。男は荒く息をしている。口元から覗く牙に表情を歪ませ、睨みつける目はまだ、確かに何かに燃えているようにも見えた。


尾を絡めとっている時点で、この男の手数はとうに失われている。明崇はそう、油断していた。


男の隠れた手元がもぞりと動く。迷彩服の一部分が、やけに尖っている。その意味を、明崇は瞬時に理解した。


まさか、拳銃――


(あめ)ェんだよ、ガキ」

バンッと耳障りな音がした。



拳銃と察したところで、急所でなければいいかなというぐらいで、明崇に避けるつもりは毛頭なかった。拳銃の鉛玉は、鬼人には効かない。鬼人の体を貫くには鉛玉は、柔らかすぎるのだ。


だがその爆音と共に射出された銃弾が、明崇の下腹部へといとも簡単に抉りこんだ。そこに至ってやっと、明崇はその銃弾が何でできているかを悟った。


――金剛骨の、銃弾だ。


「性格ッ、悪いですね」

二発目、弾が出る位置が分かっているなら、神薙で弾くのは容易い。


ギッと、弾を弾く度に刀身が軋む音がする。次の手、踏み込んで下から振り上げる。


「むッ」


何とか、拳銃をその手から叩き落とすことができた。

が、仕返しとばかりに、巻き付けていた尾を弾かれる。

――後ろにも、気配。

どうやら尾を切り落としたほうも、動き出したようだ。

また、挟み撃ち――。


面倒な事になった。


恐らくもう一人も金剛骨の銃弾を込めた、拳銃を所持しているはずだ。


金剛骨の銃弾を喰った、正に下腹部が痛み出す。痛いというよりは、熱い。熱く膨張して、今にも破裂しそうな――


クッソ。

間違いなく明崇の、劣勢だ。


そもそも、金剛骨の銃弾は、鬼人を取り締まる警視庁傘下組織でしか入手しえないもののはず。


なぜ、こんな輩がそれを所持しているのか――。


明崇はぼんやりとそんな事を考えていた。追い込まれた今になって、そんな事を気にする……我ながら自分が馬鹿らしい。


そう、自嘲した時だった。



――追い込まれた?どこが。  


声が、する。間違いなく自分の声だ。


――起きて戦え。


心の中で、いつもの自分でない自分。そんな奴の、声がする。


それはきっと、あの、血みどろの家の中から――



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