デュアルトラップ
「話って何ですか、大黒先輩」
学校の、図書室を経由し理科棟へとつながる、三階を橋渡しする連絡通路。大黒は明崇に、そこで待てと命じた。
彼は明崇についてこい、と。そう言う前、確かにこう言ったのだ。
「君の正体を、僕は知っている」
「その背負っている、刀の事も。騒がれては」
――困るでしょう?
「事を荒立てたくなければ、ついてきてください」
そういわれて明崇が、ついてこないわけがなかった。
「取りあえずここでお話、しましょう」
秋の風が心地いい。夕日の射す三階連絡通路の丁度真ん中。
大黒が立ち止まる。しかし振り返った視線が明崇の後ろを捉えたのに、気が付かない明崇ではなかった。
「取りあえず、近衛会長からの本当の提案……それをお伝えします」
「その……提案を聞く前に」
「後ろで俺を待ち構えている二人組は、何ですか」
大黒がわざとらしく、ため息をつく。
「全く……君、その直感だけは馬鹿にできませんね」
振り返ると、やはり明崇の後ろに迷彩服の男が二人。こちらに歩を進めてくる。
何の、つもり……。
「交渉を有利に進めるためのカード、という事ですか」
視線を大黒に戻す、が振り返るとそこにはもう――
大黒の姿はない。
「しまッ」
背後から静かに殺気が、その距離を詰めてくる――。
「ハァッ、ハッ……」
明崇、どこ、何処にいったの――
何処を探しても、その姿がない。二階の廊下を出て連絡通路、そこを見渡しても、明崇らしき影はなかった。心拍数が上がる。どうしよう、明崇――
「んもー、なんでいきなり出てっちゃうかなぁ」
――桑折ちゃん、びっくりしたじゃない。
底意地の悪そうな眼付き。きっとこの女の仕業……それは間違いない。
「目的は、何……?」
「へぇ?えへへ、桑折ちゃん怖い顔」
近衛六華の表情が、小馬鹿にしたようにへにゃりと歪む。
「あんたの目的は、何って聞いてんのッ」
怒る真夜に対し今度は、やけに落ち着き払った、クールな微笑を浮かべて見せる。
「何って……それを言ったところで桑折ちゃんは、きっと理解できないもの」
――三位君なら、きっと理解ってくれると思うケド。
明崇を、語らないで……。何も、何も知らない癖に。
歩みより、その平手を挙げ――。
――ガァン。
「……!?」
二人の丁度真上、三階の連絡通路から、何かがぶつかり合うような、音。それと共に細かい塵が、パラパラと落ちてくる。
「上っ……」
そう、上だ。上から、音がする。
近衛六華の脇をすり抜け、真夜は三階への階段へと足をかけた。
「真夜ちゃんッ」
亜子と……、後ろには剛。
「ついてきてッ明崇がッ」
「アキ君が、どうしたの!?」
今は、説明、してられない――。