練習風景/三位明崇
「はい、じゃーいったん休憩しよっかー」
近衛六華の鶴の一声で、その場の全員が動きを止め、腰を下ろした。
八月も正に終わる。放課後。明崇は体育祭の演舞練習、その付き添いに来ていた。もちろん隣には亜子と剛も一緒だ。
二階の多目的室を貸し切り、女子の演舞練習は行われていた。もちろん、今この教室にいるのはほとんどが演舞を踊る女子生徒。男子生徒は明崇と剛だけ、というなんとも肩身の狭い状況に追い込まれていた。
「はい真夜ちゃん、アクエリ」
練習が終わるとすぐに亜子が、真夜にスポーツドリンクとタオルを渡しに行く。
「あ、ありがと……亜子」
「んーん、お疲れ様!」
さすがの真夜も連続した練習に汗だくだった。玉のような汗が頬を流れる。ショートの黒髪がしっとりと張り付き、しなりと揺れる。
「真夜ってすごいよな。あそこまで動けると思わなかった」
明崇はここまでの練習風景を見て、至極当然の感想を言った。実際真夜は途中からこの演舞のメンバーに参加したのだ。それなのに飲み込みも異常に早いと近衛六華は言っていた。
「お前は人の事言えないだろ明崇……っておい、なんか睨まれてんぞ」
目を向けると明崇の視線を感じた真夜が、安堵とも、羞恥ともとれるような、どっちつかずの顔をし、睨んでいた。遅れて亜子がこちらを向き、もう一回真夜を見て、何をどう解釈したのか真夜同様、こちらをキッと睨み始める。
「何やってんだあいつ」
明崇が何気なく真夜の、正にその目を見つめると、次は何に耐え切れなくなったのか、ついにその視線を逸らす。
――付き添えって言ったのは真夜なのに。
「見るなって事かな」
「まぁ、気持ちは分かるかもしれないな。見られたくない事もあるんだよ女子には……多分」
真夜から視線を外し、安物の腕時計をちらりと見た。五時十五分。
「帰るの、また遅くなりそうだな」
「そうですね」
剛の声じゃない。顔を上げる。
「どうも、三位明崇君。暇つぶしがてら」
――少しお話し、しませんか。
話しかけてきたのはあの、生徒会の、大黒と呼ばれていた上級生だった。