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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第五章 近衛兵・ジンウェイビン
134/287

捜索/藤堂浩人

マンションの管理人、そして行方不明者の妹の立会いのもと、ドアが開く。

「入ろうか」

健人が声を出さず、うなずく。段ボール箱を両手に持ち、玄関からリビングに入る。

「意外と片付いてんな……」

リビングはむしろ、殺風景といえるほどにものが少なかった。テーブルと本棚、それくらいしか調度品がない。

これでは持ち出そうにも、参考になる資料が本棚の中の書籍しかない。そう思った、その時。

「藤堂さん、こっち」

そう、このマンション、間取りは2LDK。寝室だろうか、その取っ手を、健人が捻った。

「これ、は……」

その部屋は寝室ではなかった。どちらかというと作業の部屋に近い。パソコンや、作業用道具を置いた、正に仕事のための部屋、だったのだろう。

そう、だったのだろう、と推測することしかできない。

――この現状を見る限りは。


その部屋の至るものが粉砕、破壊されていた。


複数台のPCはたたき折られ、配線などが散らばり、機能しない金属塊と化している。その他にも、多数の液晶画面、それが粉砕され、散らばっているのが見受けられる。壁にもえぐられたような穴。作業用であっただろう机はひっくり返され、そのほかにも、何に使うのだろう、床に転がったやけに大きなスピーカーのようなもの、そして同様、床から引っこ抜かれた、配線――。

「な、何ですかこれっ」

璃砂達もこの部屋に足を踏み入れたようだった。

「鑑識呼ぶぞ。ハイテク課もだ」


その部屋の中心に穿たれた、大きな穴。


それを見た現場の主任警部補が、震える声で、そう言った。



鑑識課が到着したのはそれから2時間後。

データの吸い上げができるのかどうかはまだ、分からないとは言われたが。事実これだけの状態まで破壊されたPCから情報を取り出す、そんな事が出来るのだろうか。

「それでも相当、かかりますね……」

その日のうちに再び開かれた捜査会議、鑑識課の報告によるとデータの吸出しは、中々に困難であると告げた。

ではここからの捜査方針はおそらく、一定の方向に固まってくるだろう。

まず、行方不明者の身辺を洗う、その次に行方不明者がどのような記事(ネタ)を取り扱っていたのか、それを探る事になるだろう。

浩人は特に、彼のPC内部にあったであろう、仕事上のデータが気になっていた。

行方不明者、都築実は新聞記者。しかも刑事事件絡みを書いていたといわれている。

その手のネタを豊富に持っており、それが原因で拉致された可能性が高い。そしてその元となるデータを、覆面の集団が破損させに来たというのは分かりやすい構図だ。

だが、記者であれば当然。バックアップを取っているはず。

USBメモリとは限らない。SDカードなどのチップ型メモリの可能性もある。

とりあえず、それを、見つける――。

そのためにも一度くらいは、潮汐新聞社を訪れなければならないだろう。


ナシ割り。

刑事捜査において被害者、もしくは行方不明者の遺留品元を特定、もしくは分析する事を、一般的にナシ割りと呼ぶ。これは遺留“品”の(シナ)、それをさかさまにしただけという捻りもない隠語からきている。

都築実の、社内PC。

「やるか」

そのデータを読み込み、帳場にかかわる職員総出での、PCの解析が始まった。

PC内部のファイルの量は最近のものだけでも膨大すぎた。そこでUSBメモリに保存、小分けにすることで署員に配布されたパソコンそれぞれに表示し、解析を行うことになった。

最近のものから順にワードファイルなどの文書を開き、その中に刑事事件に関わるものの中から、今回拉致される原因になったと考えられる記事を、見つけ出す。

しかし半日かけてこの作業をやってみて、浩人は半ば絶望していた。

――こりゃ無理だ。

文屋だけあって、そのデータはワードファイルだけでも相当のものだった。社内用PCであるにも関わらず、仕事でかかわった刑事事件以外の、中には専門外であるはずの民事訴訟について長々と書かれた記事、そしてただの暴走族のイザコザについての書留も多く見つかった。

例えばこれは去年から今年の6月までに更新されている、ある都内の半グレ・世間でいうところの暴走族についての文書だ。


“新宿で最も今危険視できるのは真島会系の広域指定暴力団であるのは間違いない。だが最近気になるのは年端のいかぬ若者の集まり、巷で半グレと呼ばれる若年者で構成された暴徒集団だ”


ここから先はその、半グレについての記事が大量にまとめてある。これにも、目を通さなければならないのだろうか――。


先ほど、璃砂に聞かれた事を思い出す。

「浩人さん、半グレって何です?」

まぁ璃砂が知らないのも当然か。将来的に、現場勤めになる事もないのだろうし。

「半グレってのは……前にも言ったろ。暴走族みたいなもんだよ」

「それがどう厄介なんですか?暴走族って……子供じゃないですか」

なるほど。そういう印象か。

いいだろう、しっかりレクチャーしてあげようか。

――未来の官僚候補生に。


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