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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第五章 近衛兵・ジンウェイビン
133/287

行方知れずの記者/藤堂浩人

「浩人さんッ、遅いです」

署に戻れば息をつく暇もなく、璃砂に詰め寄られる。他の署員もいるのに、呼び方に気を使うのも忘れてしまっているようだ。

「何があった」

「見てくれたほうが早い」

答えてくれたのは野方署強硬班の主任警部補、璃砂の直属の上司に当たる人物だった。

「中野区、中野四丁目エスポワール中野……普通の賃貸マンションだ。201号室を借りていた男が、現在行方不明との連絡が入って、それで今日確認した。やはり本人は不在。だがこれが、そのマンション裏口の、防犯カメラに」

それに、映っていたのは――。


行方不明となっているのは中野区在住、大手新聞社として名高い潮汐新聞社、その社員、都築実(とつきみのる)

行方不明者の自宅マンションの防犯カメラ、それには、なんと、あの動物の覆面集団と共に。

つばの大きい帽子を被った、白い服の女が映っていた。

その映像の異様さを覚えていた中野署員が、刑事課に急いで取り次いでくれたのだという。

しかしこれは一体、どう判断したらいい――。


しかし話を聞いてみれば。この都築実に関して、複雑な事情があることが判明した。

そもそもは三日前、槻本武雄(つきもとたけお)という同新聞社社員が、新橋で殺害され、遺体で発見されたのが始まりだったという。殺人事件は勿論捜査一課の刑事事案。今回は5係の班から、人員が駆り出され、署に帳場が立ったといわれている。そして槻本の身辺を洗うと、この都築実がその殺害直前まで、一緒にいた可能性が高いという事が分かった……。

「一緒にいた“可能性が高い”ってどういう事ですか」

急遽、野方署では今後の捜査の指針を決める捜査会議がなされた。その席での、浩人の質問だった。

「まぁ被害者の足取りってことだ。関係者の話では二人は直前まで潮汐新聞社の飲みの席にいた。帰り道からして、二人が行動を共にしていた可能性が高い、というレベルだ。実際現地では防犯カメラが少ないと聞いている。そこから先は捜査支援分析(SMBC)の管轄になる」


ではその別件の殺人事件の被害者、槻本武雄とのかかわりは、薄かったと言わざるを得ない……という事になるだろうか。

帳場においてもそれに近い判断が下されたようだった。多野は五係の主任警部補と共に別件の殺人罪、その応援に向かったようだが、林健人、そして藤堂浩人は野方署員と協力、防犯カメラ映像をもとに、行方不明者である都築実について捜査を開始した。


しかしなぜ関係無い殺人事件の関係者・都築実のマンションの防犯カメラに、アキラと覆面集団が映りこんでいたのか?


家宅捜索の令状が下りたのが次の日だった。刑事事件にかかわるとしてやむなく、浩人達は都築実のマンション、その201号室へと足を踏み入れることとなった。

操作支援分析センターからの報告によると、防犯カメラの映像に映った例の覆面の集団はマンションに侵入し、脱出する、当然のことながら二回にわたってその姿が映しだされていた。出入においてその人数が変わらない事、そしてどうやら集団は覆面を被らない女を除き、鉄パイプなど武器のようなものを持っていた事などが分かっている。

出入において頭数が変わっていない、という事はつまり、都築実はこの集団に拉致されたわけではない、というのは確かなようだ。

昼、家宅捜索直前に入った情報では行方不明となったその日、都築実が帰宅する姿は監視カメラには全く映っていなかったとの報告からも、これは精度の高い事実と言えた。


璃砂はその日、家宅捜索の朝、浩人に縋りつくように言った。

「じゃ、じゃあ中に腐乱死体……なんてことはないんですね?」

まぁそりゃないだろう。しかし浩人はわざと、こう言っておいた。

「いや、ありうるかもしれんぞ」

低血圧だという璃砂の顔が、より一層白くなる。


そう、家宅捜索に際して、部屋内がどのような状況にあるのかは全くもって判断できないのだ。

浩人達は白手袋をはめ現場保全の観点からそれなりの身なりを整えて、家宅捜索に臨むこととなった。

「浩人さん……私いやですからね。血とか、普段は意外と無理なタイプですからね」

「最初は皆そうさ」

「……えぇー」

そもそも互いに担当した最初の事件では、あの現場もしっかり見れていたじゃないか。

「心構え的なものがあると、かえって怖いんですよ……」

うつむく璃砂に、追い打ちをかける。

「まぁ時間がたってると血とか以前に、匂い、だろうな」

死臭、というやつだ。あれは初めてだと、中々に堪えるものがある。

「に、匂いっ……」

璃砂は浩人といるのが怖くなったのかトテトテと、時田朱里(ときたあかり)をはじめとする、女性警官のいる方向へ歩いて行った。

「藤堂さーん璃砂ちゃんの事ビビらせすぎでしょ」

気が付けば隣に健人がいた。

「あいつ、いつまで所轄にいるんだろうな」

「え、は、なんすか藤堂さん」

思い出すのはこの前の、沖和正との会話だ。

――あの女は容易に、その足を踏み外す。

させない。絶対にそんな事、させない。

いや、今のうちに璃砂を遠ざけなければなどと、そんな事を考える余裕はない。

今は目の前の事に、集中――。


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