アダプテイション
あの後すぐ少女の手で、僕はまたあの部屋に戻された。
あの後も、何人もの一般人が連れ込まれてきたようだった。中にはその、ニュオグェイというボスらしき男が直々に訪れ、僕同様、腹を撃ち抜かれるものもいた。
恐らくそれはその人を、僕と同じその“化け物”に変えるための行動だったのだろうが。
「う、げぁッ……助け、がぁッ……」
目の前で腹を貫かれたその男は、口から泡を吹き、倒れ込んだ。直後、その頭から角が生え始める。
ビキビキとその体から、何か骨の様な物が飛び出し、彼の体を覆っていく、そして――
「お、おォ……かッ、ぁ」
動かなく、なった。
「使えないな。適応できなかったか」
誰かが、ぽつりと言った。その言葉に、僕は震えた。
僕も、こうなるかもしれなかった……?
何日過ぎたか、もう考えることは止めてしまった。時間間隔なんてとうの昔に失われている。
あれからもたくさんの人が、拉致され、殺された。そして僕が目の前で見て、『適応』できたのは、どうやら一人もいなかった。でも『適応』してしまうくらいなら。
「僕も、死ねればよかったのに」
人の出入りが途切れ、あの、少女と二人きりの時、僕はそう呟いた。
何の為に、生かされたのか――
僕の独白を、彼女は表情を変えずに、部屋の隅に佇みながら聞いていた。
このころになると、この集団の力関係や、人間模様が、流石にわかるようになってきた。
ここを出入りする人間は、大きく二種類に分けられる。それは至極単純――
男と、女だ。
男性の集団の首領は、即ちこの集団のボス、ニュオグェイと呼ばれる大柄な男。この集団はこの男をトップとしたヒエラルキーを形成している。しかしそれと同時、この組織のナンバー2は、あの女。
丁度今この部屋に入ってきた、女。金髪で身長170は優に超えているだろう、美人かつ、大柄。
この女はどうやら日本人、この集団内ではどうやら、“ノバラ”と呼ばれている。ニュオグェイが男性集団の頂点であるのに対し、ノバラは女性集団のリーダーである。
ノバラはこの集団の女性たちを人心で掌握しているように見える。女性たちは心からこの女を慕い、拉致、殺害、監禁という任務をこなす。
あの、冷めた目をした十代の少女。彼女はノバラによく、チョウコと呼ばれている。言葉数こそ少ないがチョウコは特にノバラにべったりだ。その二人だけ見れば、母と娘と錯覚するほどに。
しかしニュオグェイによる支配は対照的かつ極端だ。
恐怖。これに尽きると思う――。
「馴染んだ、な」
朝焼けが眩しい。誰かがこの廃ビルの、埃だらけのカーテンを開けたのだ。
大柄なこの集団の首領が近づき、僕の顔を見た。角と牙は引いている。
確信している。僕はこの男に従わなければならない。
逆らえない。どんな命令でも、聞かねばならないのだ。
――行こうか。
拘束が解けた。でも僕はこの男に今まで以上に縛られている。
地獄はまだ、終わらない。きっと、本当の地獄はこれからだ。
僕は、何人殺すことになるんだろう。