表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第五章 近衛兵・ジンウェイビン
125/287

ケイゾク/藤堂浩人

ビリビリボールペン騒動の後、刑事課でうどん屋の出前を取った。


浩人と健人は親子丼、璃砂とは月見うどん、多野を含めた年配者は冷えたつけうどんをすすっている。


余談だが刑事には、“長シャリを食べると捜査が長引く”というジンクスがある。


長シャリとは即ち、うどんやラーメンなどの長い食べ物という意味である。

こういったものを食べるとズルズルと事件の捜査が長引く、なんて昔はよく言われていたらしい。


ちなみに浩人はこの定説を全く信じていない。璃砂と捜査中、新宿でパスタを食べたこともあったくらいだ。


それでも年配のベテラン刑事ともなるとふつうは遠慮しそうな物だが、今関わっている捜査の進捗状況から、まぁ今日くらい長シャリを食べても、となったのは、確か。



今浩人達が関わっているのは四月~六月にかけて世間を震撼させた女子大生惨殺事件から始まる早稲田通り沿い連続婦女暴行事件の継続捜査である。


被疑者死亡という形で幕を閉じたこの刑事事件は、しかし多くの疑問点や、さらなる容疑者の存在を浮かび上がらせていた。


まず、背後の広域指定暴力団、六集会の存在だ。六集会は関東でも巨大な暴力団組織、真島会傘下郷神会系。つまり真島会の三次団体ということになる。


組長の佐伯和義(さえきかずよし)は今回の事件に深く関与していたとして逮捕され、現在服役中だ。


そして複数の事件関係者の聴取から、アキラと呼ばれる若い女が今回の事件に大きくかかわっていたといわれている。


浩人達は時に組対五課と協力し、この、暴力団の視点からアキラという存在について捜査を進めていたのだが……



これが今、全くの手詰まりだった。



「ホント、結局なんなんすかねぇ、アキラって」

健人がぼやいた。


アキラという重要存在に関して、収穫がなかったわけではない。ないのだが……。


どうも証言が、人によって大きく食い違っていた。


アキラは女子高生だという人もいれば、ある筋からは風俗嬢だとも。中には、自分の婚約者だと言ってはばからない男も出てきた。


そこまでいけば証言をもとに、似顔絵(モンタージュ)も作れそうなものだが――。


なんと関係者全員、その顔が思い出せないと言い出したのだ。


――何度も魅了された、食い入るように見つめていた彼女の顔が、思い出せない……。


浩人が担当した聴取で、アキラは自分の婚約者だと証言した会社員は、そう告げた。


アキラは見目麗しい、若い女とされている。しかしそれ以上、情報がない。なぜこれほど複数の証言が出ているのに、モンタージュも、身元も、手がかりがないのか。


アキラとはいったい、何者なのか――


「まぁでも、風俗嬢っていう可能性は、十分あると思いますけどね」


現在林と組んでいる、ベテラン刑事がそういった。


「あの業界って入れ替わり激しいですし……身寄りのない娘、中には戸籍がない娘、なんて稀ながらいますからね。そもそも、本名とか身元を簡単ににおわせるような女は、働かないでしょう」


確かに。浩人もそれは思っていた。最も現実的な意見だ。しかし。


あの大事件の黒幕がただの風俗嬢というのは、なんとも収まりが悪い。






昼飯を取ってからはまた外回り。関係各所に事情を聴きに行くことになっていた。


「浩人さーん。置いてっちゃいますよ」


先を行く璃砂が、振り返った。


今日は璃砂と共に、アキラの特徴と一致する、それらしき女性を見たかもしれないというホームレスの証言を洗いに行く。


恐らく老人の世迷い言。しかし信用性が薄いからといって行かないわけにはいかない。


この継続捜査で、浩人はずっと璃砂と行動を共にしている。


別にそれはいいのだが、二人きり、署以外の場所では下の名前で呼んでくるのが少々むず痒かった。


実際は相方を交代したりもするのだろうが、浩人はずっと璃砂と組んでいる。

飲みの席で、その事を愚痴をこぼしたところ多野曰く、浩人は最も璃砂に“なつかれている”のだといった。


(テル)さんに聞いたんだけど、(リサ)がそんなに一緒に居たがるの珍しいって言ってたね。浩人君、よろしく頼むってさ」


瑛というのは警務部広報官のエリート、門田璃砂の父だ。多野とは仲が良く、今でもたまに付き合いがあるというが。


「今日はあの喫茶店行きましょうか。あそこのカフェオレが帰りに飲みたい気分です」


璃砂が駅に向かう道すがら、そう言った。


「ああ、それいいな」

確かに最近、コーヒーは飲んでいない。もしそれに気づいて言ったのだとしたら、流石に気が利き過ぎるか。


しかしこれほどまでに心地良いのは、少し問題にも思える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ