生徒会 VS 1-B/三位明崇
「おいおいマジかよ……」
西田が息を飲むのが分かった。明崇もこんなに早くに対面することになるとは思っていなかった。
取りあえず、その相手を観察してみる。
敵対心を抱くのが難しい人物、そう、明崇の眼には映った。壇上で見た時とは全く違い、相手を警戒させない、穏やかな笑みを浮かべている。
「あれれー、なんか警戒されてる?お姉さん何かしたかなぁ」
たははー、と頭に手を当てる仕草。西田の言う通りの、“とっつきやすいお姉さんキャラ”らしい。
「いやいや、集会中めっちゃ睨んではったやないですか」
最初に切り込んだのは西田だった。
「いやーそれはさ。三位君が気になっちゃって。でも集会中にニヤニヤして、気になる人に気味悪がられたら嫌じゃない?だからずっと怖い顔してたの」
こーやって、と目を指で釣り上げて見せる。
それにしても……これは手ごわい人物かもしれない。主導権を握り、本心を偽るのがうまい。
隣の真夜は顔が真っ赤だ。今にも近衛六華に掴み掛かってもおかしくないくらいに頬が紅潮している。
「明崇に、何の用ですか……」
その声が、震えている。
「うーん、ちょっとお借りしたいなーって」
それを聞いた真夜の顔が蒼白になる。
渋谷の一件、二人きりで立てこもった時。
真夜は確かに言った。無事に帰ってきたその時は、私の物になって、何処へも行かないで、と。
明崇の目を見て確かに、そう言った――。
「ここで話してくださいよ。何も問題ないですよね。ここで話せない内容なら、俺、確実に断ると思うんで」
明崇は一歩前に出て、そう言った。
「うん、まぁそれはそだね。失礼な事言ってごめんね?明崇君」
ついに六華のその目が明崇を捉えた。
「じゃあ今ここで伝えるよ、君への提案を」
六華の形の良い唇が、明崇には蠢いたように見えた。
しかしその提案は、何とも拍子抜けなものだった。
「明崇君にはね、体育祭で応援団をやってほしいの」
「は?」
教室が沈黙に包まれたその時、またそのドアが開いた。その侵入者には、今度は全く見覚えがない。
「ああ会長、いらしてたんですね、もう」
どこかやつれた顔をした、背の高い男子生徒だった。セリフからして、生徒会の人間だろうか。
「会長、帰りますよ。どう考えても脈ナシでしょう。嫌われますよ」
「ちょっと!?なんでこのタイミングなのよ」
六華が声を荒げる、その様子は意外と子供っぽい。
今度はその男子生徒は、明崇に向かっていった。
「気分を害したなら謝る。実はこの会長」
――君のファンなんです。
「は!?」
なんだそれ。先ほどのセリフより余計分からない。すると近衛六華は肩を掴まれ引きずられながらも明崇に呼びかけた。
「ああ~その表情!良い。実に良い!私君のそういう、困った顔も好きなんだぁ。ちょっと、離しなさいよッ」
隣の真夜を見ると、今度は、小刻みに震え始めた。
「後日、また伺います。ただ赤組の応援団については申し訳ない。明崇君の参加は強制させていただきます。それだけ」
ちょっと待て。最後のは聞き捨てならない。
「いや、それは無理です」
その男子生徒の動きが止まった。
「今、なんて「だから無理です」
すると、その男子生徒は思い切りまくしたて始めた
「いえ、絶対に従ってもらいます。そもそも普段から学校行事にまともに参加していない君達に、特に一学期まともに登校して来なかった三位明崇、君に拒否権はありません」
――おいおい。
この先輩も相当の曲者だった。
「さすがに生徒会の横暴やないですか?」
西田が恐る恐る会話に入り込んだ。
「横暴でいいんです。生徒会ですから」
こいつ――。
今度は六華が、その男子生徒を止める番だった。
「ま、まぁ大黒君、そんなに熱くならないで、ね?それに明崇君。そんなにダメな理由ってあるの?そんなに嫌なら、思い人に強制はしたくないなーってお姉さん思うな!」
明崇は深く、息を吸い込んだ。
「まず一番は……真夜が嫌がるんで」
「ちょ、は!?」
真夜が真っ赤な顔で振り返った。さらに続ける。
「後は……実際に人前、立つのニガテなんで。断らせてもらいます
「えーそんなぁ……」
六華はがくりと、その肩を落とした。