生徒会長・近衛六華/三位明崇
全校集会。
始業式の日はもちろん、節目のたびに行われる恒例行事だ。女子、男子の二列になり1-B教室の生徒は体育館の手前、一番奥がいつものポジション。
ある程度の宿題を回収された後の明崇達には、この全校集会という行事が待っていた。
退屈なぐらいに始業式は淡々と進行していく。教頭先生のあいさつ、委員会からの連絡、新任の先生の紹介――。
「次に、生徒会長、近衛六華から」
壇上に立ったのは、十代後半の少女とは思えない気品と雰囲気をたたえた女子生徒だった。
「夏休みが明けて、生徒会からの報告と注意です」
その少女は生徒全員を見渡し、堂々とした居住まいで報告事項を読み上げていく。夏休み前の集会ではこの生徒会長が壇上に立ったのを見た覚えはない。一学期、頻繁に学校を休んでいた明崇にとって、彼女を見るのは初めての事だった。
政治家タイプ、なのかもしれない。全校生徒の前で臆せず、彼女は言葉を続ける。明崇では絶対できない芸当だ。視線にも気を配っているようで、その目は常に、見渡しつつ、一人一人に訴えかけるように目線を送っている。
が、その目が体育館の端を見据え――
止まった。間違いない、1-Bの生徒を見つめているのだ。
その目は冷たいそれのようにも見える、ただ見てるだけ、というにしてはその目は鋭くその一角を意識していた。
「全校生徒に、今一度、呼びかけたいと思います」
――今後、こういうことがないように。
そのセリフは夏休み中に補導された学生に向けた注意であったはずだが、その言葉はどうにも、彼女が先ほどから意識していると思われる、1-B組に向けた物に思えた。
そして明崇はその鋭い目が、特にどうやら自分を意識しているように思えて仕方無かった。
恐らく思春期特有の勘違いとかではなく……できるなら。
龍鬼としての直感と信じたい。
「生徒会長のおねーさん、ずっと俺らの事、睨んどったなぁ」
集会後の大掃除。1-Bクラスの全員がその話題を持ちだしていた。机に腰かけ箒を立てかけた西田幹人という男子生徒が中心だ。
「な、明崇君。会長見たの初めてなんやろ」
彼の似非な関西弁が、とても取っつきやすい事を知ったのは最近の事だ。
「……ああ、うん」
そう、生徒会長はいつもあんな感じなのか、という質問を、明崇は彼にしていた。西田はいうなれば面白いギャグセンスのある生徒であるうえに、特に人間観察に優れている。それを明崇は見抜いていた。
だが、皆と話しているときにその話題を持ち出してほしくはなかった。
「あーそっか。三位君は見るの初めてか。エリッカ会長」
エリッカ会長……?
「近衛六華……エリッカって呼んでねって本人が言うくらいやから。お堅いというよりは明るくてはっちゃけたお姉さんキャラ、やと思うねんなぁ」
なるほど、そういう感じか。
「ええーでもどうして明崇君はそんなにエリッカ会長の事が知りたいのー?」
「ああ、それやんな。そっちの方が気になるわ」
マズい。話がこういう方向に向くとは思っていなかった。
振り向く前に、明崇の肩に、真夏にしてはひんやりとした手が置かれた。
「みんな、詳しく」
振り返って見た真夜の眼は、やはり笑っていなかった。