二人で……/登田亜子
鯛焼きを食べ終わって駅に着いたら、それで四人としての集まりはお開きになった。
真夜ちゃんのお家は中野駅南口側。登田家は同じ中野でも北口側にあるので、ここで真夜ちゃんとはお別れ。
「じゃね、亜子」
「うん、また明日ね」
お、これは二人きりにしないとだね。
「……お兄ちゃん、ちょっと」
「あぁ、はいはいなるほどね」
なんでちょっとムスッとしてんの。
少し遠くで二人が会話している。あぁやっぱり真夜ちゃんイキイキしてるなぁ……
「あのさ、お前」
「ん、なんですか」
何か今日のお兄ちゃん変。
「お前は、どうにも思わねぇの」
「だから何がですかね」
はっきり申してみそ、愚兄よ。
「だから明崇だよ」
アキ君?はぁ。お兄ちゃんは何を言おうとしているのでしょうか。
「あいつの事、その、異性としてどうとか、思わねぇのかってこと」
イセイ?ああ、異性として。なるほど。
「私バカだから、そういうのなんだかよくは……」
分からない、かなぁ。
「お前さ、やっと男友達ができたわけじゃん。それこそ小学生以来」
あー、なんだか。話が面倒くさい方向に。お兄ちゃんがこの手の難しい話をし始めるとどうやら私には難易度が高いようで、すぐに頭の中がぐるぐるして考えることを止めてしまうのだ。
「俺は、良いと思うけどな。明崇」
うわー、なんかよく分かんないけど、もやもやする。
「みんな仲良い、友達同士で何がいけないの」
「あのさぁ」
お兄ちゃんが向き直る。あ、この目。
完全にお説教モードの目だ。
「それこそあの二人の関係、何だと思ってんのさ。あの二人がくっ付いて、それでいいのかよ。お前は何を思って、あいつらを二人きりにした?」
そんなの、決まってんじゃん。
「二人は、一心同体なんだよ」
「ハァ?」
お兄ちゃん何その顔。
「なんかよく分かんないけど、あの二人は昔からずっと一緒で、だからなんだろ。なんていえばいいのかな」
「なんだよ」
「何か見えないもので繋がってる、みたいな」
そう、それだ。
あの二人を見ていると、どこか不思議な気分になる。
二人ともとても強くて、しっかりしているなぁって思うけど、なぜか二人で支え合わないといけないんだと思う。
きっと二人はジグゾーパズルみたいで、それぞれの凸凹、鍵と鍵穴がカチッとかみ合うみたいに、あの二人はできている――ような気が……する。
こんな風に考えるのって、変かな?
でも、完璧なようで脆い真夜ちゃん。その脆さをうまくカバーできるのは、きっと私では無くてアキ君だけだと思う。私はそこにいても、話を聴いてあげることしかできない。
そしてきっと、真夜ちゃんもアキ君を、助けている。予想は全く当たらない私だけど、何故だか二人のことに関しては自信があった。
「やっぱり、大好きなんだなぁ」
二人の事。
「……お前何言ってんの。どっち?」
お兄ちゃんは最後まで変な私にあきれていた。
じゃ、と真夜ちゃんがアキ君に手を振る。その表情もどこか物足りなそうに見えてしまう。すると、真夜ちゃんがこっちに向かって、大声で叫んだ。
「亜子ぉ、明崇に家まで送ってもらってねェーッ」
ぎょっと、振り返るアキ君。真夜ちゃんは満面の笑み。
「うーん、分かったァー」
いつもは、真夜ちゃんに送ってもらっている。今日はアキ君が代わりに送ってくれるんだ。
「じゃあ、亜子。俺も今日は帰り遅いから、先帰ってろ」
お兄ちゃんがなんかまた、神妙そうな顔をして言った。ん、なんか今日用事あったっけ。たった今決めたみたいな言い方……。
「なんでよ。またお母さん心配するよ」
お兄ちゃんは昔、ヤンチャしてた時期があった。あのころお兄ちゃんはめったに家には帰らなくて、お父さんもお母さんもスゴく辛そうにしてた。でも普段私に対してはいつもの優しいお兄ちゃんだったから、私だけ心配していなかったけれど。
「その、あれだよ。俺の携帯もう古いじゃん。機種変だよ」
ふーん、そ。
「じゃ、帰ろっかアキ君」
そうだ。真夜ちゃんの事を聞く良いタイミングかもしれない。真夜ちゃんの事、アキ君の口からはあまり聞いたことないもの。
「家まで送って?」
「……りょーかい」
アキ君は、どこか諦めたように返事をした。