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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
夏休み編
115/287

Summer Vacation 5


「明、これ持って行って」

「……分かった」

伽耶奈から明崇に手渡された大皿には大量の生肉が盛り付けられている。それを明崇は登田家の広い庭、そのテーブルまで持っていく。

テーブルでは既に、大勢の人が席についていて、肉と野菜の焼ける匂いが、すでにこっちまで漂ってきていた。

「うっわ、これ美味しい。あーこういうの久々。夏実感するー」

ガヤガヤ騒いでいるのは詩織さん含めた和正の部下に当たるSAT中隊などの警察関係者くらいで、それ以外のみんなは黙々と、肉と野菜を突いていた。と、思いきや。

「むっ、お兄ちゃん。そのお肉、亜子が焼いてたんだよ」

案の定亜子が騒ぎ始めた。

「え、そこ。隣の肉とどこが違うんだよ」

剛が鉄板の上を指差した。

「これはさっきお兄ちゃんが置いたんじゃない!」

「いやだから誰が焼いても変わんないだろ」

「これはお兄ちゃんが焼いたお肉……いわば他人の子だよ。亜子が焼いたお肉は、亜子の子なの。だから返してッ」

「いやお前まじホント意味わかんねぇ」

――分かったよ返すよ。

「よろしい!」

そのやり取りを真夜はまるで愛おしいわが子を慈しむように見ている。意味わからん事を言う亜子も可愛いと言わんばかりだ。先ほどまで騒いでいた詩織さんは爆笑している。どうやら亜子のキャラが、大層お気に召したようだった。てかこれ、何キャラなんだ。

「明崇も食べなよ」

皿を運んできた明崇に、真夜が声をかけてくれた。剛、亜子、真夜が座るデッキチェアに、明崇も腰かけた。

詩織さん、汽嶋さん、石井さんは別のデッキチェア、明崇たちとは肉と野菜を焼いている網の反対方向にいる。そこには複数人の警察関係者が集まっている。中々に大所帯だ。

最初こそこの人数、しかも名前も知らないような赤の他人ばかりを登田家に上げるのは少し非常識ではないかとも思っていたが、なんと剛、亜子の両親二人とも、むしろにぎやかな状況が、うれしく感じられているようだった。

「藤堂さん達は、まだかな」

明崇はつい、呟いてしまった。

警視庁捜査一課の巡査部長、背が高く凛々しい、男の中の男といった感じの藤堂浩人。そして中野区野方署の強硬班に籍を置く小柄で美人なキャリア警部補、門田璃砂。二人は鎌鬼による連続殺人事件を追っていて、その結果明崇たちと出会った。運命以上のものを、今では二人に感じている。

「まだかもね……最近何だっけその、継続捜査?も忙しいみたいだし」

真夜がかぼちゃをしゃくしゃくと頬張りながらそう言った。

「げ、うそ。藤堂君来るの!?」

焼けた肉に舌鼓を打っていた詩織さんが、ぎょっと振り向く。

「あれ、言ってませんでしたっけ」

というかその前に。

――詩織さんって、藤堂さんと知り合い……?

それは彼女の、その表情を見れば明らかだった。詩織さんは慌てて、釈明を始める。

「んー実は藤堂君とはさ……高校時代からの知り合いっていうか」

「え、そうなんですか!?」

初耳、とばかりに真夜が会話に加わる。

「ただの知り合いじゃねぇだろ。警視庁入庁同期だし、警察大学校じゃよろしくやってたって噂――って痛ったぁッ」

反撃開始、とばかりにからかい始めた汽嶋さんが、叩かれた頭を押さえる。

「汽嶋ァ……あんた黙ってなさいよ」

詩織さんは鬼の形相だ。明崇なら、あの状態の彼女に減らず口を叩こうなんて思わない。

そう、この状況でそんな事をできるのは、余程肝が据わっているか。

「でも……てことは三角関係だね」

怖いもの知らずかのどちらかだ。

「おい、バカ……亜子!」

剛が慌てて諫めるも、亜子は依然トボけた顔をしている。そして誰もが知っている。

――これは、亜子の素だ。

「璃砂ちゃんね、もしかして藤堂さんの事好きなのかも。亜子思うな」

決して悪気があるわけじゃない。

詩織さんはどこに怒りをぶつければいいのか、そんな複雑な顔をしている。

「んッ、くひっいひひ」

「……死ね」

再び、汽嶋さんの頭頂が犠牲になった。


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