Summer Vacation 3
今回のバーベキューは取りあえず汽嶋にも話は言っているはずだ。何よりあの時渋谷の現場にいたメンバーで、というのが企画者である真夜の招待条件だったからだ。
だがそれ以上に、今の汽嶋に会わなければいけない理由があると、詩織は言う。
「あいつにさ、確かめたいことがあんの。渋谷の時出回った、立体地図の件なんだけど」
剛が秘密裏に入手していたという、あのバーチャル地図か。
「あれ、誰がリークしたのかも、情報元特定できてないんだよね……汽嶋ってさ。なぜかその手の情報に詳しいじゃん?何か知ってるのか、それともアイツの仕業だったりして、なんてね」
そう、詩織は仕事に関しては意外なほどに真面目だ。大方、和正にまた無理難題を吹っ掛けられたのだろう。
「情報統制、ですか」
「んー、そんなとこ」
だったら。
「たぶん塔子さんのとこだと思いますよ」
「トウコ?誰それ。え、何汽嶋の女?」
「良ければ案内しますよ。知ってるの多分俺だけでしょうし」
すると当然、隣から不満の声が上がった。
「明崇待った。私たちの事はどうするの」
「どうするのー」
亜子が明崇の腕を掴み、ぶらぶらと揺らす。
「そんな時間かからないって。だって塔子さんのマンション」
――新宿の西口近い、高層マンションだから。
「おい、そろそろ離れろって暑苦しい……」
「んー、ごめん却下」
真島塔子の自宅マンション。一人暮らしなのになぜかツインベッドなのは、汽嶋が寝泊まりすることを彼女が望んでいるからだ。
実際その居心地の良さに汽嶋太牙はかれこれ三日ずるずると、ここに入り浸っている。
「つかお前ずっと籠りっぱなしだろ。少しは外に出たらどうなんだ」
「やーだよー。お外暑いし」
汽嶋にしつこく巻き付く塔子の肌は日焼け一つしていない。病的なまでの白さだ。
「タイちゃんがいてくれればそれでいーの」
渋谷の一件が片付いてからはずっとこうしている。婦女暴行惨殺事件の継続捜査は藤堂と門田に任せてしまっているし、捜査一課とSAT、刑事部と、警備部。中途半端に二足の草鞋を履いていても、今は何故か、することがない――
外は炎天下。十分もいれば相当な量の汗をかくだろう。
汽嶋自身、一昨日から思い始めていた。
――動きたくねぇ。
ただでさえ暑いというのに、外に出るやつの気持ちが、今の汽嶋にはどうにも、理解できない。
「お仕事なんていーからさ、ね?もう少しこうしてよーよ」
そのセリフは、ここにきて何度言われたか。しかし最初はあったそれに抗おうという気力が、もう既に無い事を汽嶋自身が一番よく分かっている。
――何か、もういいや。
面倒くっせぇ。
「え、ちょっとぉ」
塔子を組み伏せ、馬乗りになる。
「も、もう一回?わ、もう元気……」
もう一回塔子とすれば、やる気も起きるかもしれない。汽嶋は布団を払いのけ、抵抗しない塔子に体を密着させ、そして――
その時、インターホンのチャイムが鳴った。
「汽嶋さーん、いますー?」
「汽嶋ー、ちょっと開けてー入れてー」
ガチャガチャと、ドアの取っ手を鳴らす音。
「な、なになにッ?人?ど、ど-しよ……」
腕の中の塔子が困惑と羞恥に悲鳴を上げた。もはやそれどころではない。
クソ……あいつらッ。
折角、盛り上がってきたというのに。