Summer Vacation 2
担任兼B組公認ゆるキャラ、“カナちゃん”にしっかり謝罪をし、夏休みに羽目を外しすぎないというありきたりな約束を交わした後、四人は下校しようとした。が。
「あ、伽耶奈姉さんだっ」
校門前には伽耶奈が立っていた。見たところ二人、連れがいる。
「高峰さん、と石井さん……?」
沖和正の部下、現役の特殊急襲部隊隊員の二人。高峰詩織と石井和久だった。なぜこんな早い時間に、伽耶奈と一緒にいるのだろう。
真夜と剛は渋谷の一件以来二人には面識がある。ぺこりと、二人が頭を下げるのが視界の端に映った。
「いやーパーティにお呼ばれされるなんて中々無くって。私は張り切っちゃったの」
――今日非番だし。
夏らしいショートカットの詩織は白いトップスにジーンズ、ネックレスを首から下げている。彼女らしいスポーティないで立ちだ。伽耶奈と並ぶと本当に、芸能人とか、そういう職種の人に見えなくもない。
「石井さんは、ホラ。ガッチガチに緊張してるだけー。若い子ニガテだから」
対して和久はポロシャツとベージュのズボンと地味目な恰好。体育祭に我が子を応援しに来た父親のようだ。三人並べば美人姉妹と、出不精なその父親、といったところか。
「うっわー、明崇君。真夜ちゃん含めカワイイ女の子二人も連れちゃってぇ。隅におけないなぁ」
このこの、と明崇を小突いて見せる。変な事言わないで下さいよ、というのもお構いなしだ。
「は、初めましてっ、登田、亜子です」
亜子も和久に負けず劣らず緊張している。したまま、詩織と和久に挨拶をした。
「あら、君カワイイね。剛君の妹さんだっけ」
「あ、は、はい」
明崇はそこで、石田が明崇達四人をじっと見ているのに気付いた。
若い四人にどこか、遠い視線を向けているように感じられるのだ。
「石井、さん……?」
「ん、ああ。気にしないでくれ……すまんな」
照れ隠しの苦笑いは、思った以上に人間味にあふれている。
「……私は正直、呼ばれても来るつもりはなかったんだ」
「うっわ石井さん。皆いるのにそういうこと言っちゃうんだぁ」
「そもそも高峰が強引に……」
石井の顔に皺が寄る。
「だって石井さん普段から暗いじゃないですか。こういう機会でもなきゃ、石井さんずっとどよーんってしてますもん。私の精神が持たないんですよ」
どよーんのところで、分かりやすく変顔をして見せる。
「ふっ……」
この、性別の前に世代が違う二人の会話は、いつ聞いても面白い。内容がかみ合ってないこともよくあって、本当の父娘の会話のようだ。
「ちょっと、何笑ってんのさ」
はっと顔を上げると詩織が、きつい視線を向けていた。
「なんかバカにしてる?」
変顔したのそっちじゃないですか……。
「い、いえ」
詩織は意外と横暴なところがある。下手な対応だと後が怖い。
「詩織、あんまり明をいじめるなよ」
そこでずっと沈黙していた伽耶奈が、たえかねたのか詩織を注意した。
「へーいへい。分かりましたよ。ほんっとブラコンなんだから」
その一言に、伽耶奈の頬が赤くなる。
「なっ、詩織ッ!」
これ以降は、本当の口喧嘩になってしまった。
「この飲んだくれ。酒バカ」
「うっさい弟バカ」
この二人は普段はサシで飲むくらい仲がいいのに、たまにこうやって激しく言い争いをしてしまう。
「だぁー伽耶奈とこんなことしてる場合じゃなかった」
小学生のような程度の低い言い争いを一通りし終えた後、詩織が言った。
「明崇君さ、汽嶋が今どこにいるか、知んない?」