被害者遺族/三位明崇
「だぁーッ、つかさぁ。お前自分が間違った事したとか、そんなこと本気で思ってんの?」
間違った事。どうだろう。
「当ててやろうか。なんでお前があいつを殺したか」
今度はニヤニヤとして見せる。そんな表情が、彼にはとても似合う。
今度は何を言うつもりだ、この人。
「被害者遺族のためだ。違うか」
「……」
「こういう時わかりやすいよな、お前」
何か、返したくても。どうしてもその言葉が出てこない。
人間は自分も自覚しない気持ちを言い当てられると、本当に何も、言い返せなくなってしまうらしい。
「会ってきたぞ。今回の帳場の被害者遺族。川田英美、シモキタマユミ、アサクラケイコ、芦田美優紀の親族全員だ」
おそらく順に、戸塚、四谷、野方の被害者だろう。報道がなかった名前には、聞き覚えがないが。
「すっきりはしねぇけど、何だろうな。前に進める、そういう顔をしてたな。そうだろ。お前はこの苦しみを知っている。事件が終わらないことの被害者遺族の苦しさを、今もお前は味わっている。お前はそれを遺族に味わせたくなかった。だから鳥越を殺して、事件を終わらせたんじゃないのか?お前のおかげで遺された家族はやっと」
――前見て、歩けんじゃねぇかよ。
「なぁ俺、間違った事言ってるか」
何が正しくて、何が間違いなのか、今の明崇にはよく分からない、分からないけど……。
「汽嶋さん、実は良い人なんですね」
――ありがとうございます。
「前言撤回、チョーシ狂うわ」
――このクソガキ。
最後は明崇の顔も見ずに、彼は乱暴にドアを閉め、去っていった。