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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第一部・終章
106/287

終結/藤堂浩人

今回の、野方、戸塚、四谷、新宿周辺にまたがった一連の連続殺人事件、詳しくは早稲田通り沿い婦女暴行連続殺人事件は被疑者死亡と言う形で一応その解決を見せた。


主犯は、鳥越充、32歳。高校の教員で高校では数学を教えていたという。


一連の事件で現場に残された犯人のものと考えられていた体液のDNAが、風化の激しい戸塚の遺体を除いて鳥越充のものと一致したことから、彼が今回の一連の犯行の実行犯であるという結論が、捜査本部においてついに下された。


被疑者死亡。そこに至るまでの経緯は異例の刑事部、公安部、警備部による合同記者会見にて明かされることとなった。


容疑者鳥越充は教員として学校の研修旅行の引率中、警邏中の渋谷署の巡査の事情聴取に対して逆上、その場で巡査の首を掻き切りその場で殺害、同行女子生徒数人に軽傷、男子生徒一名に重症の怪我を負わせ、渋谷ヒカリエ内に立てこもった。

それを受け捜査本部は刑事部特殊班捜査一係と警備部警備第一課特殊急襲部隊に応援を要請、建物内に取り残された同校生徒二名の安全を最優先とした結果、突入した特殊部隊は被疑者を射殺するという結果になった。

と、言うのが警察庁が今回の事件で貫く一連の姿勢(ポーズ)


真実をひた隠しにするのはその場にいた全員を慮ってのことではなく、警視庁が被るダメージをできるだけ抑えるため。自己保身に走っているのは確かだ。


しかし鳥越充を射殺した、その結果による世論の風当たりはそこまで強くは無かった。それはその鳥越充の、あまりに黒い過去が白日の下にさらされたため。その一点に尽きる。

彼には過去多くの余罪があった事が後の捜査で判明した。違法薬物乱用に始まり幾数もの恐喝、婦女暴行、挙句には本件に関わりのないと考えられた別件の殺人罪。立件できない物も含めればその余罪は三十件以上に上ると言う。また捜査を進めるうち、反社会勢力との、強い関わりが示唆された。


広域指定暴力団、六集会。


鳥越充に資金的援助をしていたという一連の容疑で、本庁組織犯罪対策部二課が六集会を叩くと、なんとその六集会が、今回の連続殺人事件に大きく関与していたことが示された。

そしてそれは、隠されていた刑事部の腐敗さえも掘り起こした。

なんとその六集会に関わりを持った警察職員が、今回の事件の捜査本部に存在したと言うのだ。

その容疑で先日、警視庁捜査一課八係係長、館山喜兵衛は公安部外事一課にその身柄を拘束され、誰もが予想だにしなかった真実が明らかとなった。

今回の捜査において事前に決定した捜査方針の一部。それを館山は、有ろうことか六集会に横流ししていたことが明らかになったのだ。


どうりで、至る所で証拠が綺麗に掃除されていたわけだ。


館山を含めた数人の刑事部捜査員がこの証拠隠滅、偽装工作に関わっていたとされ、鳥越、六集会から芋づる式に刑事部職員が逮捕されるという、大事件に発展していた。

今思えば沖和正も、最初から館山を疑って、あんなことをしていたのかもしれない。

そして事件関係者の話をきっかけに、その事件の中心に存在した、ある不審な存在が明らかとなった。


アキラという、見目麗しい若い女。


六集会構成員、そして館山など裏工作を働いた捜査員の証言によると、彼らはいずれも知り合ったこの女に唆され、気づけば今回の事件に関わってしまっていたという。

これからの捜査はその、アキラと呼ばれる謎の女の存在こそ、重要な参考人として、さらに組対二課を含めた合同捜査本部を立ち上げ、捜査を継続することが決定している……。



「藤堂さん、なーにしてるんです?」

昼を摂るために立ち寄ったカフェ。目の前の璃砂が、声をかけてきた。

あの事件が終息後も、解体されるどころか拡張された捜査本部。浩人は未だ、璃砂と共に捜査をしているのだ。

「別に……、もう三十分(はん)か。次行くぞ」

「はーい」

外に出れば蒸し暑い熱気が顔に吹き付けた。

今や季節は梅雨真っ只中。にも拘らず今日は、もう初夏に差し掛かったのではと思わせられるくらいに日差しが照っている。

「あのさ」

「何でしょう」

「何とかなんないのか」

その、喋り方。

「今は仕事してんだぞ。浮かれるな」

「……はーい」

そう言いつつ、璃砂の口元は笑みで緩んでいる。そしていきなり「そういえば」と言った。

「今日ですね」

そう、今日二人には重要な用事があった。


三位明崇(おんじん)の、お見舞いに行くのだ。


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