表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第四章 天雷鎚・サンダハンマー
103/287

reminiscence5/三位明崇

対して三位家では、何か不穏な空気が漂い始めていた。それこそ両親はいっそ清々しいほど変化が無かったが。変わってしまったのは、明羅だった。


彼らしくない発言、行動が目立つようになった。しかもその変化は、とても不自然だった。

夜遅くまで、徒党を組んで外出したり、明崇に意味深な事を告げたりした。


「明崇、もうすぐだよ」


そしてそういう時は大体、目の奥に、怪しげな光がともっていた。

「な、何だよ……」

しかしその眼の光はすぐに消え。

「え、あれ……兄ちゃん今俺なんか言った……?」

全然、嘘を言っている様には見えなかった。


しかしそれ以外はいつもの明羅だった。だからそれほど、その変化を気には留めなかった。



ある日。ちょうど一年前の初夏。明崇は稽古前に、いつも渡される竹刀ではなく、和紙の様なもので包れた細長い包みを手渡された。


「今日からお前はそれだ」

中身は、それはそれは美しく輝く真剣だった。


しかしお前はそれ、とはどういう意味だ。


「俺を、殺してみろ。殺すことができたなら」

――お前は自由になれるぞ。


カッ、と。全身が熱くなるのを感じた。自由。自由になれる。1秒も経たないうちに、明崇は和正に跳びかかっていた。


一太刀目が軽くいなされる。突き出してくる拳にタイミングを合わせて刀を宙に投げた。


和正の四肢。そのどれが先に動くか、それを意識した。そこから最前の一手を繰り出し、明崇は徐々に、和正を追い詰めていく。


今思えばそれは初めて芽生えた、純粋かつ、本能的な殺意だった。

――来、た。


逆手で受け止めた刃が、夕闇に踊る。


「……」

袈裟に切った一撃が、和正の体にばさりと細い線を作る。それが太く、赤く滲んでいく。


――本物の日本刀だ


すると和正は過剰なくらい距離を取る。


この時なぜか、自然に。明崇は自身の鬼人としての大きな武器を、その殺意から、初めて発生させた。


尾だ。


明崇の腰の下から伸びた長い尾が、何度も、何度も廃校の体育館の底を抉る。和正はそれに対して一定の距離を取り、正に際限なく躱し続けた。

――倒す。倒して、自由になってやる。


自分の体から伸びた尾に、そこまで驚かなかった。それよりも。


脳裏には真夜と、明羅の顔が浮かんでいた。


とめどなく振り続ける雨のように和正を狙う尾の激槍。明崇はその動きを突然止めた。尾の槍を勢いよく穿ち、それを利用して跳躍。大きく肉薄する。


もらったッ。

真夜、明羅、もうすぐ――




しかし明崇は見た。接近した時、先ほどまで刀も何も持っていないはずの和正の腕に、


蒼く光る、何かが蠢いているのを。


そして、胸に作ったはずの傷が、既にない。


蒼い金属塊、それが一瞬にして伸展し、大振りの鋭利な剣となって、明崇の肉体を貫いた。


俺、死――。

痛みと衝撃が同時に突き抜けた。体が弛緩するのが分かる。終わりだ。しかし和正は明崇を追い詰めておいて、それ以上何もしては来なかった。


「今日は、ここまでだ」

その日は、自由になることは叶わなかった。




「起きろ」

「ん……、ぅ」

そしてそれは真っ赤な惨劇の、その前日の事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ