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D.N.A配列:ドラゴン  作者: 吾妻 峻
第一章 鮮血街・ブラッディシティ
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UNKNOWN-2


僕は、夜の都会が好きだった。


汚くて、じめじめしてて、ざわざわしてて、その癖にやたらとキラキラしている。僕は幼い頃からその、夜の都会。いわゆる新宿歌舞伎町だとか、渋谷だとか、高田馬場だのといった場所に好んで訪れていた。そして当時の僕みたいな年齢の子供がお金と暇を持て余しうろうろしていると、正にその、汚い都会の住人達が、汚物に群がるハエのように集ってくる。


面白い遊びをたくさん、たくさん教えてくれた。


そんな中、一通りの遊びに飽きて、夜の都会に慣れてきたころ。


彼女――アキラに出会ったのだ。



僕はその頃、ちょっとしたお薬にハマっていた。真っ白で、サラサラで。よく見ると綺麗な細かい宝石、それこそ水に戻ることを忘れた雪の結晶の様だった。


丁度都会の魅力を知ったころ、同じ様にその、お薬を試したことはあったのだが、これがまた質が悪かったようで、いつのまにか僕は敬遠してしまっていた。


しかし後に口利きでもらったその宝石を砕いたかのようなお薬は別物だった。どうやら不純物とかなんとかが混ざっていると、キメた時の具合も良くないらしい。


新種のそのお薬は、難しいことは僕もよくわからないが、その綺麗さと精製度?がどうとかで、新宿界隈では“ダイヤ”と呼ばれていた。



そして今年の初春、僕はそのダイヤにのめり込み、少し羽目を外してしまった。はっきり言うと人を殺してしまったのだ。


確か寒さも和らいだ、三月の中旬くらいだったと思う。知り合いの女とその、ダイヤをキメた。そこまでは良かったのだ。しかし盛り上がって性欲に身を任せ、彼女を激しく揺さぶっていたら、彼女はいつの間にか白目をむいて動かなくなった。どうやら自分でも知らぬ間にきつく首を絞めてしまっていたらしい。そしてこれも自覚がないのだけれど、


彼女のどてっぱらには大きな穴が、最初からそうだったかのように広がっていた。


まぁ今更言ってもしょうが無いと思うけど、悪気はなかったのだ。


このことは後に大きな殺人事件として報道され、大ニュースになった。どうやら女は暴力団関係者だったらしいとどこかで聞いたが、僕は元来能天気な性格なので、この時は自分がどうなるかなんて考えもしなかった。


そしてまぁ予想できる通り、この一件はこじれにこじれた。


後にこの女は広域指定暴力団六集会の組長、佐伯和義(さえきかずよし)のお気に入りだったと分かり、おかしなことに警察よりも早く、僕はヤクザにお縄となってしまった。自分のことながら笑えない。


捕まった時の事も、昨日のように思い出せる。


最初から彼らは僕の事を生かして帰そうなんて思ってなかったみたいで、何気なく歌舞伎町をふらついた僕は囲まれ、人気のない路地へと連れ込まれた。


連れ込まれたのは、歌舞伎町の中心を突き抜けて職安通りに抜けたりする、確かそこらへんの路地だったと思う。


連れ込まれて、足を止めるとニュースでもちらりと顔が出てきた、佐伯の顔が遠くにあった。そして脇には白い服を着た若い女、そして同じくらい若い男。その二人はまだ若い僕から見ても中高生と言われても納得できるくらいの背格好で、なのにその二人は周りのむさくるしい構成員達からも一目置かれてるようだった。


佐伯が顎をしゃくると、すぐに鋭い拳が伸びてきた。


後は、醜い子供の喧嘩だった。


突然だけれど、僕はスポーツは苦手だったにも拘らず、喧嘩には自信があった。あれはどれだけ卑怯になれるかの勝負なのだ。喧嘩にルールなんてないのだから、何でもアリ。それを僕は分かっていたから、よほどのことではやられはしなかった。眼球をえぐったり、顎を両手で掴んで真っ二つに裂いたり、倒れたヤツの股間を踏みつぶしたり。


でも五人目を相手にし始めたぐらいで、流石の僕も疲れてきてしまった。


特に背の高い黒人、あれの拳が顎に入った時は、ホントにもうだめかと思った。白と黒の視界の端で赤と緑がぱちぱち弾けて、酔っぱらいの様に僕は、ガクリとその場に倒れ込んだ。


もう勝負は決まっていた。まだ適当に殴る蹴るされた後、佐伯がやっと近づいてきた。


趣味の悪いサングラス、派手で高圧的な色合いのスーツ。


佐伯は問うた。なんで殺したんだ、と。


僕は正直面食らった。彼がヤクザの親玉という割に、聞く事はどうしようもなく普通で。やっぱりあの女が好きだったんだなぁ、惚れてたんだなぁと思うと、まぁ少しくらい謝罪の気持ちも素直に湧いてくるわけで。


だから正直に言った。


「悪気は、なかったんです」


そう、今更しょうがないとは思うけれど。


「あひっ、あははッ」


僕がそう言ったのを聞いた、白い服の女が腹を抱え、体を前に、腰を曲げて笑い出した。

よく見ると彼女が着ていたのは、それはそれは可憐なワンピース。汚れひとつない、真っさらな、その白。


「き、み。面白ッ、アハハハハ」


甲高い、美しいソプラノが、不釣り合いなくらい汚い路地裏に響き渡る。正に、女子高生が流行のお笑い芸人を見て、テレビの前で訳もなく笑い転げているかのような、なんだか、そんな若さと無邪気さを感じさせた。

――狂おしいほど、綺麗だった。


「私ねぇ、アキラ。君は?」

彼女、もといアキラはあろうことか血に塗れた僕に、笑いかけてくれた。

「ミツ、ミ、ミツル」

「へぇ、ミツル君」

にっこりとほほ笑む。

「ねぇ、和義ぃ。この子、私が預かっても良い?」

そしてこの出会いをきっかけに、僕はヒトではなくなった。




「だからぁ。亜子、お兄ちゃんに何か悪い事した?」

「してねぇって」


思考が現実へと浮上する。ちょうど良い獲物の声が聞こえたからだ。あれは……良い。すごく良い。今日の標的としては最適だ。


「じゃぁなんで一緒に学校行くの嫌なんて言うの」

「お前さぁ、もう俺ら高校生だぞ、彼氏でも作って兄離れしろよ」


隣で歩く余計なゴミが目障りだが、実行は放課後だ。じっくり、待てば良い。


「何それ。よそはよそ、うちはうち、ですよ。私には真夜ちゃんがいるし」

「あぁ、亜子なんかをずっと相手してくれるやぁさしいオトモダチね」

「……お兄ちゃんホント最近冷たいよぉ」


登田亜子。1-B、出席番号12番。確かに上玉だ。解体する前に犯すのも良い。そして犯した後に、思いっきり血を浴びたい。そうだ、そうしよう。


――今日の放課後は、楽しくなりそうだ。



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