表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第十八話 恋は筋トレ

 一月末。

 テストもレポート提出も終わり、学生たちは大きく背伸びをして、二ヶ月間の暇をもてあそぶ春休みへと突入する。


「はい、確かにレポート受理しました」

 事務の窓口で、職員が提出用紙に判子を押す。

「ありがとうございます」

 栄次は嬉しそうに、いった。

 締切日ぎりぎりのレポートを提出だった。

 栄次はやっと、ほっと一息ついて携帯のメールをチェックした。

「あ」

 紗枝から「今年度お疲れ」メールが入っていた。

《テストお疲れさーん☆ レポートちゃんと出したか〜》

 ぷっと笑い、栄次は返信メールをうった。

《おおサンキュー、そっちもお疲れさん。てか、学校あんま来てなかっただろ》

《うん、テスト以外ほとんど行ってなかったな〜。栄次は今学校?☆》

《おう、今帰るとこ。紗枝、学校いるの?》

《ううん、違うよ〜☆》

「…………」

 聞かずにメールを切るのも一興かと思ったが、栄次は紗枝のうながしに応えてあげた。


―ま、どうせエステだろ、また。

 はまってますなぁ。


 栄次は微笑んでメールを打った。

《へ〜、てか、どこにいんの?》

《スポーツジム♪》

 なんですと。

 返信メールには書かなかったが、書きたかった。


 *


「あ、え〜いじ」

 一日体験分の料金を払い、ジャージに着替えた栄次は、マシーンジムに囲まれて汗を拭いている紗枝の姿に見つけ、眉を寄せた。

「え〜と、君は一体、何になりたいのかな」

 レッグプレスを押す紗枝の隣に立って、栄次は娘をさとすように、彼女に尋ねた。

「綺麗になりたいのよ」

 紗枝はいった。

 栄次は半分呆れて、呆れながらも紗枝に感心した。

「いつからジムに通い始めたの?」

「う〜んと、十日前かな」

 ぐぐっとマシーンを押しながら、紗枝は栄次を一瞥いちべつした。

「店長にも聞いたらね、軽い負荷での筋トレとか有酸素運動なら、全然やっていいって。

ただ、あんまり重い負荷で筋トレすると、また筋肉がこわばっちゃうかもしれないから、それは控えるってコトでね」

「すごいなあ、エステにスポーツジム。それって理想の痩せ方かもなぁ」

「え、ほんと。いやん嬉しい」

 おほほと紗枝は笑ってみせた。

 紗枝のほころぶ顔を見て、栄次は微笑んだ。そして、もう一度紗枝にいった。

「そんなに、あいつが、好きなの?」

「それ、店長にも聞かれた」

 唇をとがらして紗枝はいった。

「ぷっ、マジで。てか、そりゃ聞きたくなるよ」

「あたしがいつになくダイエットに頑張るから?」

「ま、ね」

 栄次は、胸の奥の複雑な心境は隠したまま、紗枝の言葉の続きを待った。

「人ってのは、ある日をきっかけに変われるもんなのよ。

 あたしは大崎君がきっかけで変わろうと思えたの」

「ほう」

「それにねぇ」

 そこまで言って、不意にマシーンを離して、紗枝は次のマシーンに移動した。

「? 何だよ?」

 栄次も紗枝を追って、隣のマシーンに座った。素人並に、プルアップを扱ってみた。

「言われたのよ」

「?」

「告白したとき……つまり振られ文句よ」

「……何を言われたの?」

 栄次は聞いた。

「『妥協はしないと決めてるから』って」

 がっこん。

 人の力が離れたことで、プルアップは大きく揺れて、フロア全体に金属音を響かせた。

 それだけ言って、紗枝はさっさと更衣室に入っていってしまった。

 栄次はそこに取り残された。

 マシーンのサドルに座ったまま、つぶやいた。

「キッツー……」

 慰めの言葉は思いつかなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ