全てのはじまり、不可避の到来
ー世界はいつも通りまわっていて
ーーー平凡だけど和やかで、ありふれた
毎日が一生続くと思っていた。
ーそうあの時まではー
「我に仕えし炎の精よ、焼き尽くせ‼︎」
そう唱えて杖を構え、炎の玉を飛ばす。 敵は上半身は美しい女性、下半身は魚の化け物である。その美貌に見惚れる者を水中に人を引きずり込み殺す …
今回の依頼はこの化け物に困り果てた、地元の漁師達によるものだった。炎の玉は次々と魔法使いの少女の杖から放たれ、少女を殺そうと躍起になって襲いかかる化け物を的確に捉えた。普段水中に生きている化け物達は火に弱く、炎の玉と触れると即座に蒸発し消えていった。化け物の金切り声や叫びが鳴り響いていた海岸は一気に静けさに包まれた。
マリは討伐の依頼が終わるとため息をついた。
「化け物、とゆうか人魚だよねっ。お母さんがよく読んでくれたなぁ、人魚姫。まさか、憧れの人魚がこっちの世界では恐ろしい化け物だったなんてっ」
と心の中で嘆いていた。それと同時に母を思い出して、寂しくなった。
いくら魔法が使えても、人魚を倒せても、まだ17歳。ゆるいツインテールに犬みたいなくるんとした目、見た目にも考え方にもあどけなさが残っている少女だ。そんな少女が何故たった1人で恐ろしい化け物と戦っているかというと…
記憶は1ヶ月に遡る………
あの日マリは朝から熱を出して学校を休んでいた。父と母と小学生の妹のサナはいつも通り仕事、学校に出掛けて行った。
「ちゃんと寝て熱を下げるんだぞー」
「何かあったら電話しなさいね」
「サナ、お姉ちゃんのために出来るだけ早く帰ってくるからねっ」
それぞれがマリに優しく声をかけて。
それから薬のせいか、マリはもう1度深い眠りに落ちていた。時計を見ると午後1時。
(うわっ、私すごい寝ちゃってたんだ。でも熱はもう下がったし、良かった良かったぁ)マリは冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぎながら何となくテレビをつけた。すると、そこに写っていたのはマリの通学路の途中にある公園の様子だった。
そこには、、、
空を仰ぐ人間の精巧な彫像が立っていた。
ベンチに座るサラリーマン、手にボールを持っている小さな子供、犬の散歩をしている近所のおばさん。それはまるで本物の人間が固められたような精巧さだった。
マリがその精巧さに感心していると画面の中のアナウンサーは慌てた様子で、驚きの一言を放った。
「本日午前8時頃から降り出した'銀色'の雨が、人を石の塊に変えてしまいました!原因はまだ解明されていませんが、恐らくこの雨に触れてしまうことで感染する、ウイルスか何かによるものだとゆうことです。この雨は世界各地の多くの地域で降り、雨があたる場所にいた人々の多くが石の塊になってしまっています…」(これが人間…!?)
そして画面がスタジオに切り替わり、評論家達がそれぞれに見解を述べる。その時にはもう、マリの耳にはその声は聞こえていなかった。
(8時…8時ってお父さん達がいつも家を出る頃)そう考えると恐ろしくて頭の中は真っ白だった。マリはふらつく脚で一応の為に傘を持って、長靴を履いて外に出た。こんな緊急事態でも外に飛び出さずにきちんと考えて行動できるのがマリの賢いところである。そして、玄関を出る。
すると地面には、銀色の雨の水たまりが所々にあった。それを避けながら、家族がいつも利用する駅を目指して歩いた。マリの家族は皆電車を利用して通勤・通学をしているので4人で駅まで歩く事も少なくなかった。
その道をマリは1人で足早に歩いた。途中で何個、いや何人もの石の塊と出会った。初めて見る銀色の雨粒に沢山の人が魅入ったのだろう、多くの石像は空を見上げたり、手で雨をうけようとしていた。
そして、その姿のまま石になっているのだ。マリはその石像達を見ながら涙を堪えていた。家族がその石像の中に混ざっていないかを必死で確認しながら
ただただ走って、石像たちの顔を確認した。徒歩で15分程の駅までの道のりが今のマリにはとても長かった。
そして見つけた。マリの目にうつるのは3人仲良く並んで歩く家族の姿だった。思わず駆け出したマリは
「おとうさーん!おかあさーん!サナ!迎えに来たよ!」 叫んでいた。
振り返ってくれない家族にやっと追いつき、「ねぇってばー!」
ポンっと肩に手を置いた。触れた部分の冷たさにマリは驚いて短く叫んだ。そして、触れた肩の部分はボロボロっと崩れ落ちて石と砂が混ざったものになった……
やっとマリは理解した。家族は揃って石の塊になってしまったことを。そして家族はこの後風化して砂になってしまうだけだということを。ボロっと崩れた父の肩が地面に乾いた音を出して着地した瞬間マリは叫んでいた。
「いやーーーーーーーーーーっっっ!!!」
温かい家族3人を同時に、しかも突然石になって失くすなど、普通の精神で耐えられるものではなかった。マリは正気を保てずに叫んで、叫び尽くして気を失った…
そして意識が戻ると、そこは真っ白な部屋だった。マリは自分の頭がおかしくなったか、自分も石の塊になったのかと思った。(家族の皆に会えるならそれでもいい…)と考えていると、誰かがマリの名前を呼ぶ。その声はマリの後ろにある、たった一つの扉の奥からだった。マリは、怖いとゆう気持ちすら抱けないほど精神的に追い込まれていたのでその声に恐怖することなく、むしろ透き通るその声を美しいとさえ考えながらドアノブに手をかけた。
「マリ…マリ…」 *2話につづく
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