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第四話『継承の儀へ参加受付』

   第四話『継承の儀へ参加受付』



 その日の夜、琴房は実家に継承の儀に参加することを伝えるために電話をかけた。


『は? 受けた依頼は会場の浄化でしょ、なんで木行使いのあんたが継承の儀に参加することになるのよ』


 電話の向こうから若い女性の声が響く。


「いや、浄化作業を見て、ぜひ出てほしいって言われて」

『木行を使うのを見て? ますますおかしくない、噛ませ犬役かなにか』

「ね~ちゃん、そんなひどくないか」


 木行は他の火行、水行、金行、土行の五行に比べもっとも攻撃力の無い属性。魍魎との戦いを生業とする退魔士たちにはもっともの人気の無い属性である。中には木行使いというだけで仕事をださない依頼者もいるくらい徹底的に下に見られる。


「琴様少し変わってください」


 琴房は素直に絹衣に電話を渡した。


「電話越しで失礼します。絹衣です。浄化の依頼の件は恙無く終わりました」


 長い黒髪をかきあげ耳に携帯を当てるしぐさや、かきあげたさいに見えるうなじが色香を漂わせる。

 今日一日の疲れが癒されると絹衣に見とれていた琴房だが、その絹衣の電話でさらに落ち込むことになる。


「はいそうです。浄化作業のときに私が妖刀だとばれてしまい、ぜひ儀式に参加してほしいそうです」

『そう、わかったわ』


 スピーカーからもれる承諾の声。

 儀式の参加打診を琴房のときは信じなかった姉が絹衣の言葉は一発で信じた。


「俺はそんなに信用がないのか」


 がっくりと肩を落とす琴房。


「楽しそうなことしているわね」


 落ち込む琴房のもとに数郷のお嬢様がやってきた。


「ほら落ち込んでないでしゃんとしなさい、今日泊まる部屋に案内してあげるから」


 お嬢様が琴房の腕をつかみ立ち上がらせると、そのまま腕をからませ歩き出した。


「ちょっと」

「細いけどちゃんと筋肉は付いてるのね」


 絡まった腕をつついて遊ぶお嬢様。

 対処法のわからない琴房は顔を真っ赤にして固まることしかできなかった。


「………………」


 絹衣は琴房の背中をただ無言で見つめる。それに気が付いたお嬢様は振り返り――


「ほら、そこの子もヤキモチやいてないでいくわよ」

「わ、私は琴様の刀でありヤキモチをやくなど」

「いいから早く」


 絹衣の抗議などどこ吹く風、組んだ腕もほどくことなくすたすたと廊下を歩いていく。


「おい」

「あら私に腕組まれるのがいやなの?」

「別にそんなことはないけど」


 健全な男である琴房も無理に振り解くことはできない。


「……」


 絹衣は無言で二人の後についていった。

 その晩、案内された部屋で絹衣の機嫌を取り戻すまでに相当に時間を費やされることになる。



 翌日、継承の儀の参加者受付。

 昨日に琴房が浄化した会場。

 琴房は他の継承の儀の参加する術者の中に入り受付の順番待ちの列に並んでいた。服装は昨日と同じ学ランに、手には刀の状態になった絹衣を携えている。


「予想以上に規模がでかいんだな」


 琴房の周りには多種多様な男たちがいた。錫杖をもった山伏風天狗ルックの中年に、スーツ姿でベルトに刀を差したオールバックの侍サラリーマン。高い下駄を履いたマッチョなお坊さんは武蔵坊弁慶のように薙刀を肩に担いでいる。

 知らない人が見れば何かのコスプレ会場と間違えるかもしれないが、コスプレ会場と違うのは持っている武器がみんな本物である。


 琴房の予想では二、三十人規模を想定していたが集まった人数は百に届きそうな勢い、締め切りまでまだ時間があるのでさらに増える可能性もある。


「近年術者が減少しているって話だったけど」


 機械化が進み、経済が不況になり依頼もへり、収入が減れば後進が育たない。このことについては一般企業と同じことが術者の世界にも起きていた。


「間違った噂だったのかな」

「間違えではありません」


 並んでいた列が動き、琴房に受付の順番が回ってくる。


「集まった大半の術者が君と同じ三流以下の者たちばかり」

「そうですか」


 昨日から続くとてもストレートな嫌味、琴房の受付役はメッセだった。浄化の術を見ても一芸の東夷であることから、総合では三流という評価は変わらないらしい。


「規定だからな、お嬢様の推薦者でも身体検査をさせてもらうぞ」


 継承の儀に参加する術者は身分証明と国際空港のようなボディチャックを受けている。


「ここに集まった者たちは術者の大家数郷家の秘宝である守護の霊刀『蓮珠丸』の使い手になれば、一流の仲間入りができるなどの下世話な考えの者がほとんどだろう」

「さすが説明役さん」

「九谷井メッセです。かってなあだ名をつけないでください」


 ほめたに怒られる琴房。


「第一こんなことで簡単に後継者が見つかるなら苦労しない」

「じゃ、どうして継承の儀を開いたんだ?」

「卯遁歩様がいいだしたのです。いつまでも継承者なしでは蓮珠丸がかわいそうだと」

「ならいいのでは」

「卯遁歩様のいいぶんもわかりますが、蓮珠丸の担い手はもう百年以上現れていないのですよ」

「そんなに出てなんだ」

『強力な力を秘めた武具とは得てしてそのような物です』


 今までだまっていた絹衣が口を開いた。


『私は琴様という主にめぐりあえて幸せです』

「ありがとう」

「気持ち悪いな君は」


 メッサがちょうどボディチャックを終えたところだった。


「体を検査されて喜ぶとは」

「喜んでなんかいない!」


 絹衣との会話は、直接心に語りかけてくるのでメッセには聞こえていない、危ない方向で勘違いされた。


「背負っている重いリュックと妖刀は預かるぞ。さすがにその刀の力は反則だからな、継承の儀式には己の力のみで挑んでもらう」

「絹衣」

『はい、刀はすでに私がいるので無理に後継者になる必要はありませんよ』


 若干すねたような物言い。

 絹衣にとって主が他の刀を使うのは面白くないのだろう。


「まるで俺が後継者になるのが当たり前のような言い方だな」

『当たり前です。周りの術者たちに琴様が負けるなど考えられません』


 絹衣の身内贔屓はそうとうなものだ。


「アハハ、いってくる」

『御武運を』


 絹衣をメッサに預け、琴房は一人継承の儀が執り行われる会場に向かった。




 時間がたち会場には百人を超える物々しい出で立ちの術者であふれており、昨日はなかった巨大な救護テントが完成していた。


「なんであんなにでかい救護テントがあるんだ?」


 学ラン姿で浮いている琴房の疑問に答えてくれる人はいなかった。いつもなら絹衣が返事をしてくれるんだが。


「絹を持ってないと心もとないな」


 いつも持ち歩いている刀袋がない左手を見る琴房。


「ねえキミ」


 琴房は後ろから声を掛けられた。


「キミだよ学ラン君」


 振り返ると、琴房と同い年くらいの少年がいた。

 琴房も場違いだが、この少年もキラキラした高級そうなスーツを着込み十分な場違い感をかもし出している。


「キミも継承の儀の参加者かい?」

「一応そうだけど」

「驚いた、ボクと同い年ぐらいの子がいようとは、相当腕に自信があるようだね」


 スーツの少年は両手を広げオーバーなアクションをしながら驚いたと体で表現をする。


「まあ、雑魚ばかりだと張り合いがないんでキミに少しは期待してもいいのかな」


 雑魚という単語に近くで聞いていた術者たちから鋭い視線を向けられる。


「あの失礼ですけど、どちらさまで?」

「これはビックリだ、まさかボクの事を知らないというのか」


 琴房の質問にスーツ少年は再び腕を広げ体すべてを使って驚いたというリアクションをとった。一々動作の大きい人物というのがスーツ少年に対する琴房の第一印象だ。


「有名人なのか?」

「ああ、この街に本拠を構える虚屋家(うろやけ)の者だ」

「うろやけ?」


 琴房は腕組み記憶を探るが聞いたことの無い名前だった。


「これはとんだ田舎者のようだね。虚屋といえばこの街で数郷に次ぐ退魔の家柄だよ」

「そうなのか、知らなかった」


 この街で一番大きいのは数郷。

 浄化の依頼を受けたとき数郷家も知らなかった琴房が、そのれよりも小さい虚屋家を知らないのはあるいみ当然である。


「資産なら数郷家よりも上だ、覚えておきたまえ」

「資産だけのボンボンかよ」


 周りで話を聞いていた一人がポロリと口にした。先ほどの雑魚扱いで睨んでいた一人だ。

 虚屋はその男に向かい腕をつきだすと。


「オン」


 呪言葉一つで火の玉を放った。

 虚屋の腕から発射された火の玉は男に直撃。


「うわー!!」


 燃える男は近くにあった池に飛び込む。


「どういうつもりだ」


 琴房は虚屋と名乗った少年に尋ねる。


「ちゃんと手加減はした、問題ない」


 池に飛び込んだ男はバシャバシャと溺れだした。顔に火傷をおっているが致命傷にはなっていないようだ。

 数郷家のものたちが男を池からひきあげ救護テントへと連れて行く。


「家名を馬鹿にされたからね、それ相応の報いを受けてもらっただけだ」

「そうかい」


 この手の自分に酔っているタイプは何をいっても無駄だ。自分の力に絶対的な自信を持つ分、他者を見下す。

 すくなくともこの場で何をいっても意味がないと琴房は感じた。


「本番前に揉め事は遠慮願おうかの」


 卯遁歩がお嬢様を伴い琴房たちの元にやってきた。

 今日のお嬢様は昨日のブラウスとは違い、白の着物に赤い袴をはいて巫女のような格好をしていた。


「これは卯遁歩老、お騒がして申し訳ない」


 継承の儀の主催者サイドの登場に集まっている術者たちがざわめきだす。

 虚屋は卯遁歩にうやうやしく頭をさげた、まわりに自分は別格だと見せつけるように。

 頭を上げると次はお嬢様の前に移動する。


「数郷さんもご無沙汰しています」


 朝日を吸い込んだように輝く栗色の髪の巫女。神秘てきな雰囲気の彼女にも親しげに話しかけたのだが――。


「どちら様でしたっけ」


 巫女から発せられた一言に虚屋は凍りついた。

 まわりからは思わず吹くような押さえた笑い声が聞こえてくるが、大物気取りしていた虚屋には相当こたえたようで周りの笑いは聞こえていないようだ。


「彼は虚屋家の次期当主虚屋辰朔(たつさく)殿。ウチで作った刀の試しもしてもらっておる」

「へ~」


 今初めて聞きましたという顔する巫女なお嬢様。嫌味などではなく本当に知らなかったようだ。


「すまないな虚屋殿、刻継様は世間にうとくての」

「い、いえ、気にしてませんから」

「また新しい刀の試しをたのむ」

「はい」


 呆然としたまま卯遁歩に返事をする虚屋。心のダメージは相当大きい様子。


「きのうはよく寝られた?」

「おかげさまで」


 そんな虚屋には気にせず琴房にはなしかける巫女様。


「がんばってね、あんたならいい線いくと思うから」

「できる限りはやってみるよ」

「刻継様、そろそろ時間です」

「りょ~かい」


 短い挨拶を交わすと、お嬢様は卯遁歩のあとに続き櫓へむかう。

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