第二十話『食い違った真相』
第二十話『食い違った真相』
メッセに連絡を取った蓮が十分ほどで戻ってきた。
「ちゃんと連絡できたか」
戻ってきた蓮に声をかける琴房はいつもの調子を取り戻していた。緊張はしているがテンパってしまうことは無くなった。
「ええ、メッセに電話できたわ」
「そうか……ん?」
電話して帰ってきた蓮が琴房にはどこか沈んでいるように見えた。
「どうかしたの?」
「どうもしないけど、どうしてそんなこと聞くの?」
「なんか元気がなくなったように見えるから」
「気のせいよ、それより元気がないのはあなたなんじゃないの」
「どうして俺なんだよ」
「私の携帯があなた専用じゃなくなったから」
「どうしてそれで俺が元気をなくさなきゃならないんだよ!」
本当は少しだけ残念に思う琴房であった。
その後の二人は一日を掛けて遊び倒した。
睦子のデジタル新聞に掲載されている王道スポットをまわる。ウィンドショッピングからはじまり映画に公園に、流石に海までは行く時間はなかったが。
それでも十分に普通の学生デートと思われる。本人たちはそう思っていることを体感できていた。
そして太陽が沈みはじめた夕方。
駅までの道の途中でたまたま見つけた剣道具店に寄りたいと蓮が言い出し、琴房の返事も聞かずに店内へ入っていってしまった。
琴房も後に続いて入るべきか悩んでいると、買い物を終えた蓮がすぐに店から戻ってきた。
「ずいぶんと早かったね」
「ほしいものは決まってたからね」
「なにを買ったの?」
「駅についたら教えてあげる」
なんで駅なのか、琴房は首をかしげながら駅へとむかう。
夕日でオレンジ色に染まる改札をくぐり、ホームに出ると蓮は剣道具店で買った物を取りだした。
それは赤紫色の竹刀袋であった。
「これ持って」
蓮は琴房に竹刀袋を手渡す。そして……。
「我は金の加護を授けしもの我が名は『霊刀蓮珠丸刻継』」
琴房が受け取った竹刀袋をどう使うのか不思議に思っていると、いきなり蓮が刀に姿を変えてしまった。
「蓮!?」
刀になり、重力に引かれて落ちそうになる蓮珠丸を慌てて受け止める。
「どういうつもりだ」
『絹ちゃんが羨ましかったのよ、五岬駅に着くまで抱えて行って』
蓮は以前から琴房に抱えられている絹衣が羨ましいと言っていたが。
「あれ本気で言ってたんだ」
『私はいつも本気よ、今日だけでいいからお願いね』
「わかったよ」
琴房は受け取った竹刀袋に蓮を包み到着した電車に乗り込む。
帰宅ラッシュにはまだ少し早い車内はガラガラでイスに三人ほどの乗客が座っているだけだった。琴房空いている席に座り蓮を肩にかけた。
『琴房、もう一つだけお願いがあるんだけど』
「いまさら一つ増えても気にしないぞ」
蓮に振り回され続けた一日、あと一つくらい琴房にはなんでもないと安請け合いしたのだが――それはとんでもないことだった。
『私を抱きしめて、おもいっきり』
「なぬッ!?」
予想のななめ上をいく願いであった。
『おねがい』
「……わかった」
蓮の真剣な声に、真面目な願いだと感じ取った琴房は承諾する。
竹刀袋を包み込むように抱きしめ、腕に力を込めるとカチャと一回だけ鍔鳴りの音がした。
もし蓮が生身の姿なら、琴房の顔を茹で上がったように真っ赤になっていたであろう。それでも蓮の願いだ固い鞘が琴房の肩に食い込むまで抱きしめた。
『琴房』
「なに?」
『私は刻継という名前が嫌い、長い刻を引き継ぎ主を変えていく刀。私は、私の願いは一人の主に仕え添い遂げたかった』
抱きしめた腕の中で蓮が名前が嫌いな理由をつげる。
蓮と呼ばれたときの嬉しそうな顔を琴房は思いだした。
『あなたが私の使い手だったらいいのに』
「継承の儀はもう一回行われるんだろ、全力で勝ち残るよ」
「……ありがとう」
竹刀袋の紐が解けて、人の姿に戻った蓮が琴房の隣に座り頭を肩に乗せてきた。蓮の清楚な香りが琴房の鼻に香ってきた。
「前のとき、二刀流をやっただろ、あの感覚が最高だったんだよ」
「なによ、結局二股宣言なの」
「ちがう、でも、あれは最高だったろ」
「そうね」
「だから俺、がんばってみるよ」
「ありがとう、ホントにありがとうね」
蓮は琴房の肩に顔を埋めて学ランの袖を強く握り締めてありがとうと繰り返す。
「おう、まかせろ」
「でも…………もう、継承の儀は執り行われないわ」
最後の言葉は琴房に聞かれないように呟いた。
電車を降り駅を出ると、黒塗りの車が停車していてメッセが蓮の事を待っていた。昼に掛けた電話で帰る時間を伝えていたのだ。
「刻継さま、お時間です」
「ええ、わかっているわ」
珍しくメッセが刻継と呼んでもおこらない蓮。固い表情で車に乗り込んでいく、まるで何かに覚悟をきめたような顔だ。
「琴房、悪いけどここでデートは終了ね」
「え、ああ、わかった」
「今日は楽しかった、今日のことは百年先もずっと忘れないから」
「な、なんだよそれ」
琴房を駅に残して走り去る車の中で蓮は銀鬼討伐の協議で卯遁歩との会話を思いだす。
『武具を貸し出すのはかまいません。ただし、蓮珠丸様は力をかしてはなりませんぞ』
『ええ、それは当然のことだわ』
絹衣を助けるため琴房に力を貸してしまった。そのために琴房は連珠丸の継承者候補から名前を消されてしまった。
「さよなら」
音にならない別れの言葉。
見えなくなった琴房へ向けれ、唇だけがそう動いていた。
数郷の屋敷、琴房の部屋。
デートから帰ってきた琴房は静かに部屋へ入る。
絹衣はまだ完全に回復はしていなようで布団で静かな寝息をたてていた。琴房は絹衣を起こさないようにゆっくりと腰を下ろすと。
「東夷琴房いるか」
部屋の外より声が掛けられた。
声からするとメッセのものなのだが、メッセはいつも琴房のことを一発芸と呼んでいたのでフルネームで呼ばれたことに戸惑って返事が遅れてしまった。
「いないのか?」
「いる、いるよ」
慌てて襖を開ける。
「お前宛てに荷物が届いたぞ」
「にもつ?」
「重たいので早く受け取ってくれないか」
琴房が部屋から出ると、大きな麻袋を抱えたメッセが立っていた。それを見て琴房には中身がなにかすぐに分かった。
神木の腐葉土だ。
銀鬼との戦いで消耗した補充分を琴房は姉に送ってくれるよう頼んでいたのだ。蓮とのデートですっかり忘れていた。でも良かった、絹依を助けるために手持ちの腐葉土は使い切ってしまっていたから。
「これで継承の儀がどんな形になっても耐用できるな」
「やはり知らなかったのか」
麻袋がなくなり身軽になったメッセは肩をまわしながら悲しそうな目で琴房を見る。
「継承の儀は終わった」
「え?」
琴房はメッセの言葉が理解できなかった。
蓮からそんなこと聞かされていない。今日のデートはなんだったのだ。
『今日は楽しかった、今日のことは百年先もずっと忘れないから』
まさか、あれは別れの言葉だったのか。思い起こせば蓮は悲しそうな顔をしていた。何で気づかなかったんだと琴房は自分で自分を責める。
「継承者はすでに決まっている」
「いったい誰に!?」
「あんな奴に決まるなら、お前を押していた刻継さまに賛成していれば良かったかもな」
いつも、一発芸だ三流だと見下していたメッセが、琴房の方が良かったと言わせるほどの相手。
メッセより継承者の名前が告げられ、琴房は愕然とした。
五岬駅のホーム。
昨日琴房が蓮と別れた場所。
琴房は刀の絹衣を持ち、一粒も使われなかった追加の腐葉土が詰まったリュックを背負っていた。
琴房はここで東夷の村に帰るための電車を待っている。
継承者が決まったため、琴房が数郷の屋敷に留まる理由もなくなった。
まだ銀鬼を使役していた者は掴まっていないが、それは新しい連珠丸の後継者が解決する問題だ。
立っている場所は昨日と同じなのに、琴房の心は昨日とは正反対に沈んでいた。
メッセから聞かされた継承者決定方法の話。
継承者が銀鬼の巣討伐で一番手柄を立てた者に決まる。
このことを知らなったのは琴房だけ。
討伐のおり術者たちは皆必要以上にやる気になっていた。絹衣のことで頭がいっぱいで気づいていたのに理由を聞こうとも思わなかった。
悔しさから絹衣を握る手に力がこもる。
『琴様』
「っ、すまん」
力を緩める。かなりの力がこもっていたらしく刀袋にはしわができていた。
『琴様、差し出がましいのは承知のうえですが、継承の儀はいったい』
救出された後、ほとんどを回復のため寝ていた絹衣は今の状況を把握していない。また、数郷の屋敷でも絹衣と会話をする人物は琴房と蓮しかいなかったので、二人から話をきかなければ絹衣は何も知ることができなかった。
「継承者が決まったんだ」
『継承者は琴様ではなかったのですか』
絹衣が信じられないと驚く。
「俺はなりたいと思っただけで、なれなかったよ」
『おかしいです、琴様がなりたいと思えばなれるはずです』
「無茶苦茶だな」
絹衣の琴房絶対主義。琴房の望んだことは絹衣の中では確定した事実になるようだ。
『琴様はどうして転校までしてこの街に残ったのですか?』
本来は浄化の依頼を済ませればすぐに買えるはずであった。でも琴房はこの街に残った。その理由。
「それは蓮の使い手になるために」
『まだ使い手になっていませんが』
絹依は目的を達していないのに帰っていいのかと訴えてくる。
「もう別の人物に決まったんだ」
『なら、その人物と決闘でもして奪ってしまっては』
「本当に無茶苦茶言うな」
普段の絹衣ではけっしていわない過激な進言。
同じ義人刀として蓮の扱いに思うところがあるのかもしれない。
『継承者は誰に決まったのですか?』
琴房にとっては答えたくない重たい質問、絹衣もそのことは十分に承知しているだろうが聞かずにはいられないのだろう。
「……継承者は、虚屋辰朔だ」
『待ってください、私をさらったのは虚屋です!!』
「なんだって!?」
『あの者は、銀鬼と内通していました』
銀鬼と内通、正確には銀鬼を生み出した人物と内通していたのだろう。
琴房驚きの新事実、絹依を攫ったのは銀鬼の仕業だと思い込んでいたので絹衣に確認を一切していなかった。絹衣も助け出されたのだから虚屋が琴房に倒されたものと考えていた。
思い込みによる食い違い。
絹衣は琴房に攫われた時のようすを説明する。
本日中にできてば、もう一本投稿したいと思っています。




