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第十六話『数郷の協議』

   第十六話『数郷の協議』



 学園が休校になってから三日目の朝。

 数郷の屋敷の広間にて協議がおこなわれていた。

 協議の内容は銀鬼について、公園にて琴房や辰朔に倒された銀鬼の調査が終わったからである。


 この三日、ほとんど寝ることもなく絹衣を探していた琴房と蓮も調査結果を聞くために戻ってきていた。外来である琴房は協議は参加できないが、代表である蓮は参加している。人の状態のときは人間と同じように睡眠を必要とする義人刀である蓮は睡魔を必死に抑えて報告を聞く。


 調査の指揮をとっていた卯遁歩より結果の報告がなされる。


「結果からもうしあげると、あの銀色の鬼は金行の術で作られた式神の一種、式鋼(しきはがね)であることが判明した」


 式鋼。鋼や鉄、金属性のものを媒介に作られる式神。式鋼で作られた式神は媒介でつかわれた金属の固さがそのまま体の硬度に反映され、木行や土行でつくられた式神よりも戦闘力は上回る。

 しかし、元が金属であるがため、動かすのは木行の十倍近くの呪力が必要となり燃費が悪くめったに使い手がいない。

 蓮もこの数十年で使い手の存在は聞いたことがなかった。


「いいかしら卯遁歩」

「なんでしょう」


 この協議に参加している者の中で、筆頭鍛冶師の卯遁歩を呼び捨てにできるのは蓮ただ一人だけ。


「私が知っている式鋼はあそこまで協力ではなかったわ」


 火行の術を受けてびくともしないほどの硬度を持っているなら、たとえ燃費が悪くても廃れることはないだろう。蓮の知っている式鋼は火行をくらえばドロドロに溶ける脆いものだった。


「おっしゃる通りです。あの式鋼には古いものとは違い、新たな術式が組み込まれていたようです」


 五行術の術式とは、パソコンでいうプログラムに近いものがあり、術式を細かく把握できれば術の開発は術者なら誰でもできる。

 琴房が使う雑草小太刀や仁王剛腕も琴房が編み出したオリジナル術である。


「新たな術式とは」

「共有進化とでも名づければようでしょうか、銀鬼たちは力のこもった金属を集め取り込むことで自己を進化分裂させているようです」

「つまり、玄三日月がいなくなったのは」

「進化のために持ち去ったと思われます。継承の儀の襲撃は蓮珠丸を狙ったのでしょう」


 蓮はギリっと奥歯を噛みしめる。絹衣がいなくなった原因は突き止められたが、その結果は最悪のものだった。


「早く玄三日月を助けださないと」

「言いにくいことですが、もうすでに吸収されてしまったのでは」


 協議に参加していた一人が口にする。銀鬼から絹衣の妖気を感じると使い手たる琴房が証言しているのだ。


「蓮珠丸様はまだ玄三日月が吸収されていないと」


 卯遁歩があご髭をなでながら訪ねてくる。


「ええ吸収されてないわ。彼女ほどの妖刀が吸収されたのなら、とっくにこの街は銀鬼に支配されるか滅ぼされているわ」


 おそらく絹衣の力が強すぎるため少しずつしか吸収できていないのだ。そう考えれば微かにしか感じない絹衣の力にも説明ができるのではないか、それならば絹衣を助けられる可能性は高い。


「卯遁歩、銀鬼の正体はわかったわ。退治方法はどうなの」

「解析した術式から推測しますに、おそらく巣のようなモノがありそこに金属を集めているかと、巣が術式の核なら、その巣をつぶせば共有進化は止まるはず」

「目撃情報をまとめると、この街のどこかに巣があると考えていいわね」

「ご明察です」


 行動方針が決まった。


「伍岬にいるすべての守護役並び術者にこの情報を公開、巣の発見に全力をそぐように。そして発見したのならば、この街いる総力を集結させ銀鬼を殲滅する。望む者には数郷は武具の貸だしは惜しまないと伝えない」


 協議に参加していたすべての者が蓮に頭をさげる。


「以上、解散」

「少し待ってもらえますか」


 下げた頭を起こして卯遁歩が解散に待ったをかけた。


「言い残したことがあるのか」

「はい、延期になっている継承の儀についてです」

「今はそれどころではないわ、銀鬼の問題を解決しない限り、また継承の儀の会場が襲撃されるかもしれないのよ」


 蓮が場違いな発言した卯遁歩を睨みつける。卯遁歩の隣に座っていた参加者は青い顔になるが、睨まれた卯遁歩自身は表情を変えることなく髭をなでた。


「銀鬼の殲滅戦を継承の儀としてはいかがでしょう」

「意味がわからないんだけど?」

「つまり、銀鬼の巣殲滅で一番活躍したものを、継承者にするというのはどうでしょうか」

「卯遁歩殿あまりにも乱暴です。継承の儀はゲームではありません」


 末席に控えていたメッセが卯遁歩に意見する。普段は目上に礼儀をかかさない彼女も蓮絡みになるといかなる相手にも噛みつく猛犬となる。


「しかし、今まで通りの継承の儀では、長い間継承者は現れなんだ」


 鍛冶集団をまとめる老骨は例え猛犬に噛みつかれようとも、眉一つ動かさない。


「面白いじゃない、その話乗ったわ」

「刻継さま!!」


 猛犬の飼い主は面白い意見だと卯遁歩の提案を受け入れた。


「蓮珠丸様のお気に入りは活躍しそうなのですか?」


 卯遁歩は試すように蓮を見つめる。


「もちろん、私がはじめて主にしたいと想った人よ」

「刻継さまッ!!」

「たいした自信ですな」


 メッセの叫びはスルーする蓮と卯遁歩。


「ただし「刻継さま~~~~!!」ば、資格をうしないますぞ」


 卯遁歩が継承の儀に対して蓮に一つの条件を出した。

 しかしその条件はメッセの叫びによって蓮以外の者には聞き取ることができなかった。


「ええ、それは当然のことだわ」


 話を終えた蓮が広間を後にしようとしたが、ある事を思い出して栗色の髪を揺らしてくるりと振り返る。


「メッセ」

「は、はい!」

「刻継って呼ばないで」


 継承の儀が変更されても、そこにはいつもと変わらないお嬢様がいた。




 早足で客間へと向かう蓮、銀鬼の新情報を教えるために琴房の元へ急ぐ。本来、術者の総力戦ともなれば代表が指揮を取るのが普通だが、義人刀である蓮はお飾りの代表。権限こそ持つが、細かい詰めは協議に参加した者たちがすることになっている。


「琴房、入るわよ」


 琴房がいる客間の障子をあける。


「銀鬼ついて有力な情報がわかったわよ……」


 銀鬼ついてなによりも情報を欲しがっていた琴房からの返事がない。


「まったく、私が頑張っていたのに一人だけずるいわよ」


 蓮が入ってきたのにも気づかず、琴房は畳のうえで寝息をたてていた。

 布団をひく気力もなかったのだろう。服装も帰ってきた時の学ランのまま、もしかしたら協議が終わるのを寝ずに待つつもりでいたのかもしれないが。


「無理もないか」


 この三日ほとんど休みなしだった。

 蓮は畳に腰を降ろすと琴房の頭を膝に乗せた。

 琴房の顔を見たあと部屋に視線をめぐらせる。

 この部屋を貸して一週間。

 銀鬼の捜索で寝るとき以外は使われていない。

 備え付けの机の上には充電中の携帯だけ。

 部屋のすみにおかれたリュック。

 来たときはパンパンにふくれていたリュックも。

 度重なる術の使用でだいぶ細くなっていた。


 静かにゆっくりと流れる時間。

 聞こえてくのは、風にゆれる木の葉としし落とし。

 継承の儀以後のんびり過ごした記憶はない。

 それはつまり、琴房とのんびり過ごしたことがない。

 この時間も一時のもの、すぐに終わってしまう淡い時間。

 次にのんびり過ごせるとしたら、それは事件が解決したあとだろう。

 事件が解決すれば蓮珠丸の主が決まる。

 蓮は願う。

 どうかもう一度このような時間がむかえられるようにと――……窓から差しこむ太陽の光が眠る二人をやさしく包み込む。




 蓮が琴房の部屋に訪れてから約八時間。


 ドタドタドタと、荒々しい足音が近づいてきた。

 その音で琴房は目を覚ますと、頭の下にやわらかい感触があることに気がついたが、寝起きの頭は状況の確認をこばみ、睡魔の誘惑に負けて感触を楽しみながら再び眠りに落ちそうになったが。


「お嬢様~~!!」


 メッセが蓮を探す声が聞こえてくる。

 響く振動はさらに近づき、部屋の障子あけはなたれた。


「お嬢様、やっぱりここに――……何をやっているのですかッ!!」


 部屋に充満していたゆったりとした空気を吹き飛ばすメッセの怒号は、琴房の眠気も一緒に吹き飛ばされた。


「そうか、俺は寝ちゃってたのか」


 ここでやっと自分が寝ていたと意識する琴房。


「貴様が寝ていようが、死んでいようが私には関係ない、だが――」


 ひどい言われようである。


「――だが、その状態は許すことができない!!」

「じょうたい?」


 頭の下は枕とはちがう暖かい感触、横向きに寝ていた首は何かで固定されていたことに今気がついた。


「ん、ん~~」


 そして上からは色っぽい声が聞こえてくる。


「あら、メッセおはよう」

「おはようじゃありません、な、なにをしているのですか」


 メッセの声が今度は震えている。


「何って、ひざまくら」


 楽しそうな声、世話係の動揺さえも楽しんでいるようだ。


「ひざまくら!?」


 ひざまくらをされていた琴房が驚く、気がつかなかった。起き上がろうとするが、蓮の腕にガッチリと抑えられていて動けない。


「蓮さん、いったいなにを……」

「ひざまくら」


 それはもう聞いている。

 お嬢様第一のメッセにとって外来の木行使いと仲良くするのは思うところがあるのだろう、握った拳がプルプルと震え怒っているのがわかる。しかし、お嬢様の楽しそうな表情を見てしまうと、その怒りを吐き出すことができないようだ。

 にがい薬を飲みこむように怒りを抑え、部屋にやってきた本題を伝えるためにメッセは口をひらいた。


「遊んでいる場合ではありませんお嬢様、銀鬼の巣の在り処が判明しました」


 それは琴房にとって待望の情報であった。

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