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第十五話『絹の気配』

   第十五話『絹の気配』



 メールに記載されていた目撃情報の現場に急ぐ。

 琴房は警備員に預けていた神木の腐葉土が入ったリュックを背負い。蓮は教室で気を失っている睦子のことを伝えた、拘束は当然といてある。


 現場は学園からそれほど離れていない公園。


「ここを曲がれば見えてくるわ」


 重たいリュックを支えながら琴房は必死に蓮の後を追いかける。リュックを置けばもっと早く走れるが絹衣のいない今、琴房にとって唯一の武器がこのリュックなのだ。

 曲がった角の先には、都会のオアシスとのお題目に作られた街で一、二の広さを誇る公園。


 蓮の先導で公園の中へ。


 中へ入った途端に空気が変わった。

 全力で走ってきたにも関わらず悪寒が走るほどの異様な雰囲気。


「居るな」

「ええ」


 誰がとは言わない、睦子の情報通りであった。

 公園内は異界へと変貌していた。


「でも睦子の情報ではこの公園までしかわからないわ」

「まかせろ」


 琴房はリュックより腐葉土を一握り取りだすと地面に小さな砂山を作る。そして、雑草を一本抜くと雑草小太刀に変え五芒星を砂山を中心に描く。


怨・青・林・根・探オン・セイ・リン・コン・タン 大地を伝う者よ 我が目我が耳となり 異なる物を探さん網となれ 木行五節の言霊のもと 拡散せよ『根眼(こんがん)の瞳』」


 砂山に雑草小太刀を突き立てる。

 琴房の氣が雑草小太刀を流れ腐葉土で増幅され公園に茂るすべての植物の根へと拡散していく。

 ソナー探知機の木行版。植物の根が届く範囲の妖気を把握できるようになる。


「見つけた。三体もいる」

「木行って案外便利ね」

「コンクリートの多い街の中じゃまったく役にたたない術だけどね」


 この術の探索範囲は地面が土で植物の根がとどくところまで、今回は現場が公園だったからこそ使用できた。


「こっち」


 さっきまでとは逆に琴房が先導する。

 向かう先は公園ないでも木々がおおい林の中。

 歩道からは外れ、高くなっていく芝をかき分け進みと金属がぶつかりあう音が聞こえてきた。


「誰かが戦っているのか」


「ボクの力に屈しろ銀鬼め!」


「この声は」


 聞こえてきた声は琴房と蓮には聞き覚えのあるものだった。


「やっぱり、辰朔たちだったか」


 戦闘音の現場にたどり着けば二体の銀鬼に対し虚屋辰朔と虚屋左奈江が有利に戦いを繰り広げていた。銀鬼は屋敷を襲撃した個体よりも一回り小さく刀を持って戦っていた。


「琴房、銀鬼が持ってる刀」


 二体の銀鬼が持っている刀は刀身が黒く染まっていた。この色は妖気を含んでいる特徴だ、絹依と同じく、だが……。


「似ているけど絹じゃない、だけど」


 形状は玄三日月に酷似している、放つ妖気は玄三日月にくらべ弱々しい。だが……。

 弱々しい妖気の中に――。


「微かに絹の氣が混じってる」

「どういうことよ」

「わからない!!」


「おや、東夷琴房じゃないか。ボクが銀鬼を倒すのを見学にきたのかい」


 一方の虚屋たちも決闘の時に使用していた刀とは違うモノを持っていた。そもれ二本ずつ合計四本。あの四本があるため銀鬼相手でも余裕でいられるようだ。


「見よ、これがパワーアップしたボクの力だ」


 炎をまとった二本の刀が銀鬼の妖刀を持つ腕を斬り落とし、返す刀で胴体も切り裂いた。


「どうだいボクの力は」


 左奈江も辰朔と同様に余裕をもって銀鬼を切り倒す。


「本気になればこんなものだ、どうだい東夷琴房、もう一度戦えば今度はボクの楽勝で――」


 銀鬼を仕留めたことを自慢してくる辰朔を無視して、斬り落とされた腕の元へ走る。琴房は黒い刀身の刀を確かめずにはいられなかった。微かに感じた絹依の妖気を確認せずにはいられない。


「おい、人の話をきいているのか」


 聞いてなどいない。

 聞く余裕などあるわけがない、ようやく見つけた絹衣の手がかりだ。


「それ数郷家(うち)の新作の四神刀でしょ」


 蓮は辰朔に琴房の邪魔をさせないよう話かける。


「数郷さん、ええそうです、卯遁歩老よりお借りしました。ご覧のとおりボクが見事に使いこなし銀鬼を殺しました」


 ここぞとばかりに売り込みをかけてくる。継承の儀が延期となっている現在、少しでも数郷家に対し好印象をあたえたいのであろう。が、先日の決闘騒ぎで蓮の虚屋に対する評価は最低なモノになっている。現状の態度からみても、この評価が覆ることはないだろう。


「ボクの才能があれば間違いなく蓮珠丸をも使いこなすことができます」

「だといいわね」


 適当な相槌。


「見てくださいこの斬り口、並の術者ならこんなにキレイには斬れません」


 うながされ銀鬼を見る蓮、虚屋はキレイと表する切り口は断面が歪んでおり、刀の性能で無理矢理切り裂いた感じで、刀の身である蓮からすれば、こんな使い方をされるのはごめんだと思う方どの力技であった。


「数郷に屋敷には連絡を入れたの」

「ええ、右緒太が知らせに行きました」


 数郷の屋敷で琴房が倒した銀鬼は時間の経過で銀色の砂、砂鉄に近いものに変質した。この銀鬼も時間がたてば同じようになるだろう。その前にこの二体を調べるとこができれば銀鬼の正体がわかるかもしれない。


「……二体?」

「どうかしましたか数郷さん」


 公園の入り口で琴房が術を使った結果はどうだったか、『三体もいる』と間違いなく言っていた。


「この二体以外に銀鬼を倒した」

「いえ、ボクたちがたおしたのはこの二体だけですが」


 連は嫌な予感がした。


「琴房、悪けどさっきの『根眼の瞳』って術をもう一回使って――」


 蓮の言葉が途中で止まる。今この場いる四人の仲で金行が使えるのは蓮のみ、だから気がついたのも蓮が一番早かった。

 金行系統の術がこの場所を狙っていると。


「よけて!!」


 何をとは説明している時間は無かった、蓮の警告に遅れ三人も気が付く。

 術の発動場所はやや上方、太い木にコワラのように長い爪でしがみついている銀鬼がいた。口が異様にふくらみ、妖気が集中していた、術の発動寸前である。

 全員が回避行動にはいった直後。銀鬼の口がひらき、無数の針が吐き出された。

 降りそそぐ鉄針の雨。

 琴房は調べていた妖刀をかかえ、リュックの重さを利用して後ろへ体全体で転がりながら逃げた。


「こしゃくな、まだいたか」


 辰朔が体制を立てなし銀鬼にむかっていくが……。


「坊ちゃま!」


 接近戦を不利とさとった銀鬼は、接近を許さず再び鉄針を吐いてくる。真正面から突っこんだ辰朔には回避の手段がない。

 左奈江が両手にもっていた四神刀を投げ捨てて、辰朔に飛びつき鉄針を交わした。突然のことで辰朔も二本の刀を落としてしまった。


「この鬼の分際で!」


 銀鬼に向け火行の術を放つが、無詠唱の火行では効き目が無いことは数郷の屋敷で判明している。


「それなら、接近戦に持ち込めばいい」


 接近戦なら先程倒していると、刀を落としていることにも気が付かず、今度は銀鬼が掴まっている木を燃やし出した、木が一本だけならば銀鬼は地面へと落ちてきただろうが、ここは林の中、飛び移る木はいくらでもある。


「逃げるな!!」


 頭に血が登った辰朔はさらに木々を焼こうとする。


「やめなさい、公園全体を火事にする気!」


 ブレーキが完全にこわれている。この調子で焼き続けたら、間違いなく公園が火の海となる。そうなれば近隣に被害がでないわけがない。ここは街の中にある公園なのだ。しかもそこまでやって銀鬼が倒せる保証もなく、むしろ倒せていない可能性の方が高いのだ。


「鬼を倒すが術者の役目だろ!」

「護る街を焼いて術者が務まるか愚か者!!」


 文句を吐くお坊ちゃまを逆に叱責する。

 蓮の守護霊刀としての義務と誇り、数百年の積み重ね、少しの才能でのぼせている小物に勝てるわけがない。


「蓮よけろ!!」


 辰朔を脅威ではないと判断した銀鬼が蓮に狙いを変えてきた。

 琴房の注意のおかげでギリギリで交わせたが、鉄針が緋袴のすそを抜き地面に刺さり、蓮は地面に縫い付けられる形となってしまった。


「これってまさか睦子の呪い」


 さきほど学園で睦子にしたことを、やり返された気分になる蓮。

 動けない蓮はかっこうの獲物、銀鬼は口を開き、追加の鉄針を放ってくが、蓮は一切の焦りを見せなかった。


「けっこう余裕があるな」

「琴房なら助けてくれると信じてたからね」


 蓮に迫る鉄針を琴房が間に入りリュックを盾に防ぐ。針の雨を防ぎきるとリュックを投げ捨て、雑草小太刀で地面に縫いつけられている緋袴を切ると蓮をお姫様ダッコして逃げる。ゆっくりと抜いている暇は無かった。

 ワンテンポ遅れて蓮のいた場所に鉄針の剣山が完成した。

 琴房は全速力で鉄針が飛んでこない木の影に飛び込んで一息。


蓮珠丸(わたし)を使う?」

「いや、大丈夫だ。こいつを使う」


 唯一の武器であったリュックを失ったのに琴房は自信満々だった。腰にベルトに無理やり差していた銀鬼から拾った妖刀を見せる。


「使えるの」


 銀鬼が使っていた、出所不明の妖刀。


「絹の力が混ざっているなら、俺に使えないはずがない」


 琴房が五亡星を描く。


「それに林の中なら木行使いのホームグラウンドだよ。怨・青・林・根・縛 ヘデラの子よ 異形を縛す蔦となれ 木行五節の言霊のもと 変生せよ『蒼き雪姫』」


 白い蔦を操る術を発動させ死角から飛びだす。

 本来は『蒼き雪姫』は相手を捕縛するためにつかわれるのだが、今回は地面の下に蔦をのばし、銀鬼がしがみついている木を揺らす。

 揺らされた銀鬼は慌てて隣の木に飛び移るが、つかまろうとした木が横に倒れる、これもとうぜん雪姫のしわざ伸ばした爪が空をきる。

 つかまるものが無くなれば落ちるしかない。


 落下地点に先回りした琴房は妖刀を構え待ち受ける。


「セイヤ!!」


 気合の斬りあげ、剣閃が空に向かって伸び、銀鬼は胴体から真っ二つにした。絹依の玄三日月ほどではないが、この妖刀もかなりの妖力を孕んでいた。コントロールさえできれば銀鬼でも切り裂くことはできる。


 これで三体目。琴房が探知した銀鬼はすべて倒した。


「おつかれ」


 隠れていた蓮が琴房のもとにやってくる。破かれた緋袴以外は外傷はないようだ。

 琴房がもっていた妖刀が銀の砂となり崩れていく。


「琴房」

「ああ、使ってみて確信がもてた。これは絹の妖気だ」


 どうして銀鬼が所持していた刀から絹衣の妖力がするのかわからない、わからないおが、関係があることはわかった。

 銀鬼を調べていけばきっと絹衣にたどりつく。


「蓮」

「なに?」

「せっかく転入させてもらって悪いけど、明日からしばらく学校を休む」


 手掛かりを見つけた以上はそれに最善をつくしたい、今までは銀鬼の捜索を学校が終わった後、夜だけで行っていたが、それに一日全ての時間をつぎ込みたいのだ。


「あら、休む必要はないわよ」


 琴房の言いだすことがわかっていたのだろう。蓮は休みの話をされても驚いた様子がまったくない。


「爆発の原因究明でしばらく休校になるから」


 蓮が琴房と腕を組む。


「絹ちゃん探し、私も全力で協力するからね」


 緋袴の破れ目から出る蓮の生の足が琴房の足にあたる。


「れ、蓮」

「袴を破いたのは琴房なんだから、責任をもってこのまま屋敷までエスコートしなさい」


 その後、右緒太によばれ駆けつけた数郷の者に現場を引き継ぎ、数郷の屋敷に帰る琴房と蓮。その間、二人の腕がはなされることはなかった。

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