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第十三話『動乱の爆発』

   第十三話『動乱の爆発』



「行け左奈江」


 辰朔の指示で赤い炎を纏った左奈江が突貫してくる。

 玄三日月と朱雀刀の衝突。


 勝負は一瞬で決着がついた。

 朱雀刀にヒビが入り左奈江を後方に弾き返す。


「隙あり!!」


 振り抜いた姿勢で止まった琴房に辰朔が襲いかかる。辰朔ははじめから朱雀刀が玄三日月に勝てるとは考えていなかったのだろう。

 琴房が見せた隙を待ち望んだかのように突いてきた。


 仲間を犠牲にした奇襲、私情ではじめた決闘でして良いことではない。琴房には犠牲をしいてまで行う戦いには思えない。

 握る玄三日月の峰をかえし刃がひらめく。


 描かれるのは黒い軌閃。


 銀鬼の一撃にも耐えた鎖帷子を一刀のもと切り裂いた。

 飛び散る帷子の破片、辰朔はふらふらと後ずさり膝をつく。

 切り裂いたのは鎖帷子だけ、体に傷ついていない。


「くっそ、まだ、まだ負けてない」


 口では負けていないといっているが、最大戦力の左奈江を失い、勝ち目がないことは理解しているだろうが、プライドが邪魔をして引けない状況になっている。

 琴房もこれ以上追撃をかける気はなく、こう着状態になりかけた時。


「そこまでにしなさい」


 第三者の声が割って入ってきた。


「数郷がおさめる学園で問題を起こさないでよね」


 この学園の理事も務める数郷家のお嬢さまのご登場。

 結界を破ることなく普通に歩いて入ってきた。


「虚屋の者、結界具の試験はもう良いです。学園にいる多くの学生たちは誰一人気づくことはありませんでした。あとは報告書だけで十分」


 この場は呪具のテストですましてあげるから、とっととこの場は去れという意味だろう。


「わ、わかった」


 辰朔が矛を収めるには十分な理由ができた。

 右緒太、左奈江兄弟も立ち上がり結界を解除すると、のろのろとした足取りで校舎裏から姿をけした。


「助かったよ蓮」

「まったく、絹ちゃんが行ったから大丈夫だと思ったのに、下手に手加減するからこじれて収集がつかなくなるのよ、素直に意識刈り取れば簡単に終わってたじゃない」

「面目ないです」


 物騒な意見ではあるが、蓮が助けにこなければ場が収まらなかったので言い返すことができない。


「私に手間をかけさせたバツとして、帰りにクレープでもおごりなさい」

「わかりました、仰せのままに」


 急な転校で財布の中身が乏しくなっているなか、さらなる出費に肩を落とした。


「まったく情けないわね。真っ直ぐ立ちなさいよ」


 背中をまるめた琴房に蓮は自然な感じで腕を組み引きあげる。

 今までの焦りからくる押しの強い雰囲気はなく、普通に自然体の笑顔をまじかで直視した琴房の顔が茹でたように赤くなった。


「どうかしたの?」

「べ、べつになんでもない」


 これまでにない余裕をもった蓮のアピールに絹衣も負けじと人の姿に戻り反対側の腕を組む。


「お、おい」

「琴様はケガをされたようなので、支えて差しあげます」


 うつむき絹衣も顔を真っ赤にさせながらも腕をはなさい。それどころかさらに力を入れて組み直した。


「さぁ、昼休みも終わるし教室に戻るわよ」


 二人に挟まれ引きずられるように校舎に戻る。

 デジタル新聞で配信されていた謎の美少女転校生が琴房と腕を組んでいた所を目撃した多くの男子生徒たちが再び騒ぎ出したのはいうまでもないことだろう。




 校舎裏で決闘がおこなわれた晩。

 虚屋屋敷の庭で辰朔は怒りにふるえていた。


「たかが木行使いの分際で」


 放たれる炎が灯篭を破壊する。


「このままでは、蓮珠丸の後継者がヤツになってしまう。あってはならないそんなこと、認めるわけにはいかない」

「玄三日月がこなければ、東夷琴房に勝ち目はありませんでした」


 暴れる辰朔に左奈江はたんたんと言葉をおくる。


「そうだよ、あの妖刀さえなければ俺は負けない!」


 蓮珠丸を除けば数郷でも最高位の刀である朱雀刀も玄三日月の一撃でヒビを入れられた。


「朱雀刀のことですが、ヒビだけではなく妖力の汚染もあるようです、一度数郷に戻し修繕してもらわなくてはなりません」


 左奈江が鞘から抜いた刀はヒビの部分が黒ずみ鋼の光沢が失われていた。


「そんな、なまくら刀使い物にならなかったと突き返せ」

「かしこまりました」


 感情のこもらない表情でお辞儀すると、左奈江は朱雀刀を鞘におさめ立ちあがる。


「まったく邪をはらう四神刀などと、完全な名前負けじゃないか」


 怒りが収まらず、次に破壊できそうな物を探し庭の四方に視線を巡らせる。


「……いや、まてよ」


 自分自身の行動で辰朔の中でひらめくものがあった。


「左奈江まて、いいことを思いついた」


 辰朔は立ち去ろうとする左奈江を呼びとめた。その時の辰朔の顔にはとても醜い笑みが浮かべられていた。




 決闘が行われた翌日、琴房は眠たい目をこすりながら体育の授業を受けていた。

 昨晩も蓮、絹衣と共に銀鬼を探して夜の街を歩きまわったのだが収穫ゼロ。

 体育の授業は男子がサッカーだったため、試合に出ない残ったメンバーは校庭のすみに腰を下ろしていた。琴房も出ていないのでこれ幸いと体を休めている。


 女子は持久走をしており、トラックを何周も走っていた。

 蓮が琴房の前を通るたびに『琴房ずるい』と視線を送ってくるがこのことに関してはどうにもできないので、ご苦労様と視線を送り返す。


「仲良いよな数郷のお嬢様と、アイコンタクトで会話成立してるし」

「ま~な」


 昨日決闘した相手の右緒太が普通に話しかけてくる、こいつはとても神経が図太い男のようだ。まあ琴房も昨日入れた一撃でチャラと伝えていたので気にしていない。

 のんびりと走り去る蓮の後姿を見送る。


「ダレてるな」

「なぜだか知らないけど、今日の朝から追いかけられなくなったからな」


 転校三日目にしてはじめて襲撃をうけない学園生活をおくることができた。


「ああ、追いかけられない理由はな、虚屋の坊ちゃまをケンカでボコッたって噂が流れたからだ」

「はぁ? なんでそんな噂が流れんだよ、結界で完全に隠してたろ!」


 まったりとしていた琴房に衝撃がおそう。


「俺が睦子に情報を売った」

「おい」


 やられた当人が噂を広めてどうする。


「どういうつもりだ」

「いや~、お前の情報って睦子が高く買ってくれるから。今月は少し遊びすぎてサイフがダイエットしちまってよ」

「それでも術者か」

「あはは、いいだろ隠すところは隠してるし、お前も学園中を追い掛け回されることがなくなったんだからいいだろ」


 琴房は知らなかったが、辰朔は武闘派な権力持ち学園内ではかなり恐れられていた存在らしい、それを琴房が一人で倒したと聞いた生徒たちが恐れの対象に琴房も追加したのだ。


「で、あの黒髪の大和撫子はいずこに?」

「体育の授業に刀を持ち込めるわけないだろ、教室に置いてきたよ」

「いつ転入してくるんだ」

「転入はしない」


 絹衣転入の情報は睦子の早とちりであり、蓮に一度誘われたが絹衣自身も学園に通う気はないと答えている。


「え~~」


 文句が入り混じった声がしぼりだされた。


「琴房がお願いすれば転入してくれるんじゃない、制服姿を見てみたいと思わないのか」


 確かに主である琴房の願いなら、絹衣は即答で転入を承諾するだろうが。


「本人が望んでないことを強要する気はない」


 琴房も普段は着物姿でしかいない絹衣の制服姿を見てみたい気もするが、妖刀として人々から嫌われ続けた絹衣は人が多く集まる場所を嫌っている。


「次のチームに代われ!」


 サッカーの試合が終わり、体育教師が休んでいる男子、琴房たちに声をかける。


「やっと出番か」


 琴房が立ち上がり、砂埃を払っていると――


   ――ドガッーーーン!!――


 校舎から鼓膜を破るような衝撃派を伴う爆発音が響き渡った。


 昨日まで響いていた男子の叫びとは桁が違う。

 飛行機が墜落したのではないかと疑うほどの大きさ。

 校庭にいたすべての者が動きを止められる。


 爆発源は一つの教室。

 窓ガラスは吹き飛び、黒い煙がモクモクとあがっている。


「絹!!」


 琴房が絹衣の名よ呼び校舎へ走り出した。


「あこそ、俺たちの教室か!?」


 あまりのことに右緒太ははじめまわりの生徒たちは自分たちの教室が爆発源だとは気づかなかった。

 学園の構造に一番なれていない琴房が気がついた理由、それはたちこめる煙の中に絹衣の妖気が微かに混ざっていたからだ。


「琴房!!」


 持久走をしていた蓮も琴房のあとを追いかける。

 だが蓮のことも意識入らなかった今の琴房は絹衣のもとへ最短距離を突き進む。


 校庭から一番近かった職員室の窓を破り校舎へ入ると階段へ向かい、二段飛ばしで駆け上がる。

 爆発で飛び散った破片を踏み越え教室の前へたどり着く、入り口のドアも吹き飛び、発動したスプリンクラーがあたりを水浸しにしていた。


「絹!!」


 ためらうことなく爆発源である教室に飛び込む。


「琴房!」


 蓮もあとに続く。

 散乱する机やイスの破片をかき分け一本の刀を探す。


「絹、どこだ!!」


 いくら呼んでも返事はない、いくら探してもみつからない。

 刀のまま爆発で砕けたとしても破片は見つかるはず。

 だがそれすらも見つからない。


「琴房、落ち着いて人がくるわ」

「でも!!」

「落ち着きなさい!!」


 蓮が琴房を抱きしめる。


「……蓮」


 スプリンクラーの雨に濡れ冷えた体に蓮の温もりが伝わってくる。

 その温もりが琴房に少しの冷静さを取り戻させた。


「絹ちゃんほどの刀がこれしきの爆発でどうかなると思えないし、いれば妖気ですぐにわかる。それがないってことはもう絹ちゃんはここにはいないってこと」

「だったら、いったいどこに」

「わからない、とにかくここを離れて落ち着いた場所で考えましょう」


 窓の外からサイレンの音が聞こえてきた。誰かが通報したのであろう。


「時間的に限界ね」


 蓮が指をならすと、教室を囲むように展開されていた結界が解除される。爆発後に張られた人払いの結界、数分間は何とか効き目を維持してくれた。これがなければ誰かが教室にきて琴房たちを目撃されていたかもしれない。


「結界をはっていたのか」

「うちには学園にはスクープのためなら火の中に飛び込むような人もいるしね」

「……たしかに」


 琴房の脳裏に睦子の顔がうかぶ。


「さぁ、行くわよ」


 濡れた栗色の髪をかきあげ、蓮は琴房に手をさしのべた。

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