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第十話『眠りたい、あなたの腕の中で』

   第十話『眠りたい、あなたの腕の中で』



 夜、数郷の屋敷にて緊急の会議が開かれた。

 会議の参加者は数郷家の上役たち八人。参加者の中には代表である蓮、筆頭鍛冶師の卯遁歩、そしてメッセの姿もあった。

 数郷家は五岬街の守護役、屋敷を襲撃され住民にまで被害者がでた現状を早急に解決しなければならない義務がある。


「あの銀鬼の情報は?」

「申し訳ありません」


 蓮の問いにメッセは頭をさげた。ほかのものたちもメッセに続いて頭を下げる。


「なにも情報は入っていないのね」

「すみません、継承の儀の問題に人員のほとんどをさいていましたので、初動が遅れました」

「言い訳にならないわね」


 守る力を継承するために、守る対象をほったらかしにしては本末転倒である。ましてや集まっている情報が学生の部活で集められる情報以下というのは恥以外のなにものでもない。


「街を守護役が聞いてあきれるわ」

「面目ございません」


 蓮はメッセに怒ったわけではなく、自分自身にむけての言葉だった。


「まあいいわ、私はこれから夜街に巡回にでるから」

「それは危険です。お嬢様が出る必要などありません!!」

「何をいってるの、私は人々を守るために作られた刀なのよ」

「それでは護衛を――」

「その必要はないわ、琴房と行くから」

「あの木行使いですか」


 メッセはあからさまに不安な顔をした。


「問題があるの、彼はウチの術者がかなわなかった銀鬼を一体しとめているのよ」

「それは蓮珠丸となったお嬢様が力をお貸ししたからでは」

「いや、それはないじゃろう。仮に蓮珠丸の力を使わずとも彼には玄三日月があった、苦戦はしたかもしれんが、かの妖刀の力だけでも銀鬼を倒していたはずじゃ」


 いままで黙って蓮とメッセのやり取りを聞いていた卯遁歩が口をひらいた。


「卯遁歩の言う通りよ」

「どうだ蓮珠丸よ、お主の継承者、この銀鬼事件を解決した者がなるというのは?」

「卯遁歩様!? なにを言い出すのです」


 卯遁歩の提案にメッセが思わず立ち上がった。


「面白いじゃない」


 しかしメッセとは逆に蓮は笑みをうかべる。


「私はかまわないわよ」

「自信ありげじゃの」


 すんなりと了承する蓮、その瞳には強い自信が宿っていた。


「期待できるのか、応援している若者は」

「私が始めて主にしたいと思ったのよ、期待できた当然でしょ」

「そうか」


 卯遁歩はうなずきながら顎をなでる。


「それじゃ行ってくるわ」

「刻継様、彼は木行使いですよ」

「さっきと同じセリフねメッセ、重々承知の上よ。彼は力を心をしめした、いえ、魂を見せてくれた。それでいいじゃない」


 魂を見せるとはいったいなんなのか、メッセには理解できない。


「意味がわかりません」

「そう、だったら事件が解決するまでに理解しておいて」


 琴房が蓮珠丸を引き継げば、蓮は琴房を末席どころか数郷の代表の地位も譲りそうな雰囲気だ。そうなればつまりメッセよりも立場が上になる。


「刻継様ッ!」


 メッセがまだ食い下がろうとしたが、蓮の笑顔がきえ――


「刻継って呼ばないで」

「も、申し訳ありませんお嬢様」

「まだ私にいいたいことはある?」

「継承の儀変更の正式な発表はまだですから、彼だけに先に教えてはいけませんよ」


 メッセ最後の悪あがき、蓮はわかっているわと返事をし、卯遁歩に一礼をすると会議の間をあとにした。




 門のそとでは琴房が刀の絹衣を携え待っていた。


「思ったより早かったな」

「ほとんど情報がないのだもの、話し合ったって何も前へは進まないわ」

「行くか」

「ええ」


 二人は夜の街へと赴く。

 出会ってまだ二日。

 そのたった二日で琴房と蓮は主語を抜きにした会話を成立させる。それは同じ目的をもった退魔士と守護霊刀だからなのか、それとも別の要素があるのか――


 屋敷の門をくぐるとすぐに蓮は琴房の隣によってきた。


「二人きりで夜の街を歩くなんてワクワクするわね」


 琴房の耳元で甘くささやく。


「目的わかってるよな」

「もちろんよ、でも、どうせするなら楽しんだほうがおとくでしょ。ねぇ腕組もうか!」


 琴房の了承を聞くよりもはやく蓮は琴房の腕に自分の腕をからませた。


「な、なんでそうなるんだよ」

「もちろん楽しむためよ」


 キッパリといいきる。どこまでも自分の欲望に素直な意見。


「いいじゃない二人きりなんだから」

『三人です』


 琴房の持っている刀が光り、絹衣が人の形をとった。


「二人きりではありません」


 琴房の蓮の間にわって入るように舞い降りる。


「わざわざ姿を変えなくても」

「夜の街を刀をもって歩けば、琴様が警察に足止めをされるかもしれませんので」

「数郷の名前をだせば大丈夫よ、守護役ってことで話は通っているから」

「それは知りませんでした」


 だが絹依は再び刀の姿にもどるようすはなく、琴房と蓮の間をうごかない。


「まあ、三人で歩くもの悪くないか、二股宣言を受けた仲だし」

「だ、だからそれは」

「細かいことは気にしない」


 現状をとことん楽しもうとする蓮は絹衣の反対側に回り込み、琴房と腕を組みなおす。


「さあ、銀鬼を全力で見つけるわ!」


 夜の街に蓮の凛とした声がビルの間をこだました。




 翌日の朝。

 琴房と蓮は眠い目をこすりながら学校へ向かい重たい足を動かしてた。


「けっきょく手掛かりは見つからなかったな」

「睦子のところにあれだけ目撃情報があるから、もっと簡単に見つかると思ったんだけど考えがあまかったわ」


 登校中なので周りには一般生徒がいるため二人は主語を抜いて会話している。その息のあった仲の良い雰囲気に琴房へと向けられる嫉妬が増していることには二人は気がついていなかった。

 昨晩は蓮の気合に引きずられ早朝まで銀鬼を捜し、集中力が削られていることも気づけなかった要因の一つかもしれない。


「四岳さんに新しい情報がないか聞いてみるか」

「それしかないわね、昨日で決着を付けられれば良かったのに、今夜こそ」


 力強く握り拳まで作って決意表明をする。


「…………」

「なによ」

「昨日から思ってたけど、すごい気合だなと」

「気合入れるのは、悪くないでしょ」

「なんか早く決着をつけなきゃいけない理由でもあるのか」

「ッ!?」


 琴房の予想以上におどろいた反応する蓮。


「り、理由なんてないわよ、もし人に悪さする鬼がいるなら、早期解決するのが守護役の務め――」

「――蓮!!」


 鬼という言葉を口にしたため琴房があわてて止める。


「あ」


 蓮も自分の失敗に気付きまわりを伺う。

 声の届く範囲にいた生徒たちはみな琴房たちを見ていた。


「あちゃ~」

「まあ、この程度なら大丈夫だと思うが」


 二人は早足で前をいく数人の生徒を追いぬき、校門を潜るまで速度を落とさなかった。

 下駄箱を通れば生徒たちはバラバラに教室へと向かっていく。

 ここでやっと一息がつけた二人。


「ふわ~~」


 蓮は手で口を隠しながらアクビをした。


「それにしても眠いわね」

「ほとんど徹夜だったからな」


 今度は鬼の話をしていないので周囲の生徒に聞かれても問題ないと考えている二人だが、近くで聞いていた生徒、特に男子たちは「徹夜」という単語に敏感に反応していた。

 会話の流れから二人が一夜を共にしたとしか聞こえない。確かに共にはしていたが、健全な男子学生が想像するような羨ましい事態にはいたっていない。


「いいわね、琴房の腕の中で眠れて」


 蓮が琴房に抱えられている刀袋、その中にいる絹衣を羨ましそうに見つめる。


『…………』

「返事がないわね」

「完全に寝てるな」

「やっぱ羨ましいわ。私も眠らせてくれない」


 蓮は琴房のしなだれかかる。


「あなたの腕のなかで」

「なんだっとーーー!!」


 聞き耳を立てていた男子どもが爆発した。

 今までの曖昧な表現では今度はバッチリと誤解できる言葉を聞かれてしまった。

 昨日に引き続き、今日は朝から男子たちに琴房は追い掛け回された。




「よう、昨日に続き、また騒ぎをおこしたんだって」


 予鈴がなり、ようやく自分の机にたどり着いた琴房はうっつぶし、ギリギリで教室にやってきた右緒太に声をかけられる。


「俺のせいじゃない」


 徹夜のうえ朝から男子に追われ、琴房の体力は限界まで削られていた。


「昼休みは逃げたほうがいいかもな」

「なんで」

「さっき睦子とすれ違ったら朝の騒動を取材しまくってた、昼までには号外が流れると思うぜ」


 疲れた体にめまいまでもが襲ってきた。


「くっそ~俺は学校に追いかけられるためにきてるんじゃないんだぞ」

「そうだったんだ!?」


 本気で驚く右緒太。


「なんだその反応は」

「俺はてっきり追いかけられるのが好きなじゃないかと疑っていた」

「そんなわけないだろ!!」


 残った体力を総動員して抗議する。


「じゃあなんのために転入してきたんだ」

「そりゃ蓮の手に入れるために」

「蓮ってだれだ、また新しい女か」

「なにいってるんだよ、蓮は……」


 ここで、数郷の蓮珠丸に蓮と名前をつけたのは自分だと思い出す。


「数郷だよ、蓮っていうのはあだ名」


 教室の雰囲気が変わる。それに気がつかないのは琴房ただ一人。


「お前、やっぱり追われのが趣味なんじゃないか」

「なんでだよ」

「いや、だってな数郷のお嬢様はこの学園の人気ナンバーワンだぞ」


 それをどうどうと手に入れる宣言をしたのだ。

 まわりから注がれる敵意のこもった視線、きっかけさえあれば今にも爆発する爆弾のような状態になっている。

 緊迫した状況の中、一人の女子が二人に近づいてきた。


「兄さん、今日は日直でしょ。担任の先生が呼んでいました」

「ああ、そうだった」


 首の上で切りそろえられた黒髪に鋭い目つきの女子は右緒太淡々と要件を伝える。


「兄さん?」

「ああ、こいつ妹なんだ、双子の」

「同じクラスだったのか」


 はじめてしる新事実、まあ、休み時間の殆どを男子どもに追いかけられ、クラスメートを把握する時間など琴房には殆どなかったが。


「それじゃ俺は日直の仕事があるみたいだから~」


 居心地の悪い場所から早く逃げたい右緒太は、妹の登場にこれさいわいとすばやく教室から姿をけした。


「右緒太の妹か、俺は東夷琴房よろしく」

「知っています」

「そ、そうか」


 冷たい反応。


「虚屋右緒太の妹の虚屋左奈江(さなえ)です。よろしくするつもりはありません」

「そ、そうか」


 同じ反応しかできない琴房、さっきまで鋭い視線をむけていた男子たちが、今度はざまあみろと含み笑いをした。


「それでは失礼します。謎の美少女転校を囲って二股宣言をした変態さん」

「は?」


 敵意に満ちた言葉を残し左奈江は去っていった。


「……俺なんか嫌われることしたかな」


 携帯電話の着信音が鳴り、睦子の書いた号外が送られてきた。タイトルは『あなたの腕で眠りたい』。

 この二日ですっかりクラスの名物となった怒声爆発が学園のすみずみに轟いた。

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