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7人の魔女と3人の魔王  作者: 田野中 小春
第1章 覇王の惨死
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EP2:憤怒の魔女

 エルフ、それは固体の少ない亜人種の中でも特に多い種族である。人間との違いは特徴的な尖った耳と脆弱な体。

 しかし彼らは「魔法」を使うことができる。「魔法」とはエルフのアイデンティティであったが、人間が科学を発達させたため彼らの「魔法」に昔ほどの価値はなくなってきている。

 エルフの攻撃魔法は必殺の威力を誇るが、人間にも銃火器があるためエルフは蹂躙されている。

 銃火器で武装した人間と魔法を扱うエルフの戦闘能力はほぼ等しい。だから数の多い人間が勝つという単純なことである。


「……エルフだったんですか」

「えぇ、でも気付いていたんじゃないですか?」

 セレナは微笑みながらメシアに質問をする。確かにメシアは予想できなかったわけではない。

 ただの少女が第一級指名手配犯になるなどテロ組織の幹部でもない限りありえない。ゆえに迫害されている亜人ではないかと推測していた。


「……亜人種だとは思っていました。しかし、エルフなのは予想外です。エルフは亜人種の中でもそんなに嫌われてないですよね?」

「そうですね。エルフは奴隷としての価値も高いと聞いたことがあります」

 軽口ではなくマジメに返ってきた言葉にメシアは言葉を失う。亜人種差別は知っていたし奴隷が珍しいことでもないことも理解していた。

 しかし、目の前の少女から語られたその言葉には妙な生々しさが存在しており、本などで見聞きした情報との重さが違った。


「失礼、空気を重くしてしまいましたね。……でも、私が兵士に、というよりも帝国に追われているのは私が亜人種だからという訳ではありません」

 当然である。このローアシュタイン帝国では公的には人間と亜人とを区別した法は存在しない。


 メシアはそれを知っていたからこそ「正しいモノの見方」を大事にしていたのだ。

 しかしそれは彼女が追われているのは何かしらの犯罪に手を染めた結果、指名手配されているということであった。だからこれが最後の機会であった。メシアがセレナとの関係を終わらせる最後の機会であった。だが、


「おねぇさん、あじんしゅ…なの?」

 パジャマだったリータが制服に着替え(大きな猫耳が隠れるニット帽を被っ)てカウンターからセレナに話しかけた。


「うん、そうだよ」

「おぉ…! わたし、初めて見た。ねぇねぇ、亜人種ってどんな感じ! どんな感じ!」

 初めて出会った同族を前にしてリータが目を爛々と輝かせてセレナに質問する。まるで子供が憧れの人物を質問攻めするように。


「リータ! 人に接する時のマナーを教えたはずだぞ!」

「大丈夫ですよ、可愛いものじゃないですか。私、年下の亜人とはあんまり話したことないから嬉しいです」

 子供の教育に厳しくしているメシアを軽くなだめてセレナはリータの頭を撫でる。


 帽子越しであるが撫でられたリータは気持ち良さそうにしている。警戒心の強いリータが初対面の相手にここまで心を許している所を見たことはメシアにとって初めてであったためしぶしぶ二人を見過ごした。

「お姉さんはね、5人かな。皆良い人たちだったよ」


「どういうひとたちだったの?」

「優しい人、強い人、楽しい人、そんな感じで愉快な人たちだよ」

「うんうん、それで! それで!」


 一人一人詳しく話せというニュアンスでリータが急かす。そんな光景を見てメシアは和んでいると、


 カランカラン


「あ、すみません。まだ開店時間じゃ…」


 メシアが返事を全て言い終わる前に店内に銃声が鳴り響き硝煙が充満する。

 扉から入ってきた兵士は返事をしたメシアの左腕を無慈悲に撃ったからだ。


「うあぁああ!!」


「「!!!!」」


 熱い激痛に耐えられなかったメシアは悲痛な声を出して痛がる。

 銃声と悲鳴にセレナは身構え、リータは一目散に店の外に逃げ出した。兵士はそれに気にせず銃口をセレナに向ける。


「やはりこの店に居たか、ゴルルコビッチ卿」

「……その呼び方は嫌いだから止めろと言っているだろうが」

 セレナは強気に兵士に接する。その気迫は先ほどまでの穏やかな少女のものとは別物であった。厳格さが滲み出ている、ただの喫茶店の店員を撃った兵士に憤怒の意を表明する。


「良いのか? いくら貴様でも…」

 兵士(A)の後ろから入ってきた2人目の兵士(B)がアサルトライフルの銃口をメシアに向けて脅迫した。


「……外道が、それが帝国軍人のやることか」

「貴様が逃げ続けるからだ。これが最後の警告だ。投降しろ。さすればこの民間人の命と罪は見逃してやる」

「はっ、下っ端の分際で交渉か」


 強気な発言をしているが、セレナは動揺していた。セレナはあまり精神的に強いタイプではないため、ブラフは苦手である。兵士もそれが分かっていたためセレナの発言を気にも留めない。そして兵士(B)は引き金を引こうとした。


「止めろ!! その人は関係ない!!」

「ならば投降しろ。我々は皇帝陛下の命で動いている。だから…」


「だからどうしろと?」

 そう言ったのは兵士でもセレナでもない、銃口を向けられているメシアだった。

 そこには憤怒が込められていた、だがそれは自分を撃ったことに対してではない、彼女を脅していることに対して憤怒を露にしていた。


「おい、民間人。貴様はこの女が何をしたのか知っての行動か? 知らないのならば救いようがある。貴様は大人しくしていろ」

「却下だ、例え皇帝陛下の親衛隊様だろうと知ったことか。ウチの店で好き勝手にやらせるワケにはいかねぇんだよ!!」

 撃たれた傷口から流れる血を右手で抑えながら兵士に怒鳴る。


 自分の店で自分が嫌いな『悪』が目の前で『悪行』をすることを彼の『正義』は許容できなかったのだった。


「貴様を公務執行妨害で罪人扱いすることは我々末端の人間の権利でも簡単に出来るのだぞ? そうなればこの店を営業停止にすることも出来る。職権乱用ではない、これは正当な権利である」

「……確かにこの店を潰されるのは俺としても非常に困る。だが、それでも目の前の『悪』を野放しにするのは俺にはできねぇんだよ!!」


 メシアには損得を考える利口な思考よりも、自分の『正義』を貫くことを選んでしまった。かつて、自分が敬愛する姉がそうしたように。



「メシア、覚えておけ。この世界は理不尽だ。だからいつかお前にとって許せない『悪』が現れるかもしれない。その時は自分を信じろ、誰かがお前の『正義』を『悪』だと否定してもお前がお前の『正義』を『善』だと肯定してやれ。例えそれがどんな強者であろうとお前はお前が信じた『正義』に殉じろ」


 物心つく前に両親を亡くし、血の繋がらない義理の弟を育ててくれた亜人の姉の最後の言葉だった。この言葉を言った翌朝、姉は別れの挨拶もせずに旅に出た。その後、現在に至るまで義姉の行き先を知らないメシアが彼女に会うことは一度もできなかった。


 この言葉を信じて生きてきた。自分の価値観が正しいと信じ続けて生きてきた。


 そして、

「そうか、貴様は帝国への反逆罪で処刑する」

 その発言と共に、再び理不尽な銃声と銃弾がメシアを襲い、彼の心臓に穴をあけた。


「メシアさん!!」

 悲しい叫びをしたセレナは兵士の顔面を裏拳で殴る。メシアに集中していた兵士は怯み、兵士をそのまま店から追い出して鍵を掛け、メシアの傍に駆け寄る。


「メシアさん!! メシアさん!! ねぇ!! 返事をしてください!!」

「あ……ゴフッ……セレナさん、すみません、なんか後味悪い感じになってしまって……」


 口から血を吐きながら謝罪するメシアにセレナは憤怒した。

「なんで……なんでそんなことが言えるんですか!! 私のせいで貴方は死に掛けて……いや死ぬのに、なんでそんなことが言えるんですか!!」


「別に……ただ、誰かを憎みながら死にたくないだけですよ……もし、悪いと思っているならリータのことをお願いします……」


 そう言い遺してメシアは息を引き取った。

「いや、いや! なんで……なんでこんなことに……あなたは死なせない……例え、あなたに憎まれてもこんな死に方は私は認めない」


 そして、セレナはメシアの冷たい唇にキスをした。

 メシアの心臓の穴を塞ぐために、無我夢中で彼を蘇生させるために、常識的に考えれば異常に見えるその行動には彼女なりの意味があった。


 彼女の中に暖かな『何か』を感じる。その何かがメシアの中に逆流し始める。

「ゴルルコビッチ卿! やはり貴様には鉛弾を5.6発入れてやる!!」


 二人の兵士が扉を破壊して再び店に入ってくるが、セレナはそれを無視する。

 無視をしているセレナの背中に銃を乱射する。けれども、セレナはそれにすらも動じない。当然である、セレナの体にも、服にも何の変化も無かったから。


「な!? え!?」

 アサルトライフルが効かないことに狼狽した兵士は引き金を引き続ける。が、

数秒後に引き金を引いても弾丸が出てこなくなる。


 弾倉マガジンが空になるまで撃ってもセレナには無意味であった。

 彼女の周囲に存在した不気味な『黒い風』が彼女を守ったためアサルトライフルの弾丸がひしゃげた状態で床に落ちる。


「ウソだろ……これが……元円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)であるゴルルコビッチ卿の……」


 目の前の現実を受け入れることが出来ない兵士たちは独白して最低限の情報を理解しようとする。だが、

「……この憤怒ふんどの魔女、セレスティーナ=R=ゴルルコビッチが貴様らゴミクズの罪をこの場で断罪する!!」

 セレナの右腕が巨大なカギ爪に変化し、そのカギ爪で二人の兵士を引き裂いて瞬殺した。



「ジェミニ卿!! 報告であります!

 ゴルルコビッチ卿を追っていた兵士二人の遺体がヘヴンヘイズのとある喫茶店で発見されました。

 おそらくゴルルコビッチ卿が何者かと契約し、魔女の力を発動したのだと思われます」

「報告ご苦労、下がってよいぞ!」

「はっ!!」


 伝令係の兵士が『ジェミニ卿』と呼ばれた絢爛な椅子に座った小柄の少女に敬礼をして立ち去る。少女は椅子にふんぞり返り顎に手を当てて何かを考える。


「おい、確かガウェイン卿がアスタナに来ていたな?」

「は! 移動していなければそのはずであります!」

「ならばガウェイン卿に誰か使いを送れ。

 内容は『サタンをヘヴンヘイズにて発見、サタンはアスタナに向かうと思われる。ゆえに検問を張りサタンを封殺するための準備を求む』と」

「サー!!」


 『ジェミニ卿』が近くに居た兵士に指示し、兵士は敬礼後に大きく回れ右をして全力で部屋を飛び出す。


「お姉ちゃん、これで上手く行くかな?」

「相手はあのセレスティーナだ。しかも眷属も居る。我々だけだと無理だろうが、ガウェイン卿まで居れば役不足と言えるだろう」

「セレスティーナだからこそガウェイン卿ではなくスコルピウス卿の方が良い気がするけど……?」

「あの男は嫌いだ」

「うん、私も嫌い」

「ならば問題はない、流石のアレも三人がかりなら殺せるだろう?」

「でもお姉ちゃんは油断するからなぁ……」

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