狼少女との出会い
どうも、風狼龍です。
本当に間に合うかな、これ。
とりあえず、頑張っていきますので、それではどうぞ!
「早く入れ!」
「だから、俺は暗殺なんて……! と言うより、どういう事ですか!?」
「後で話を聞いてやる! とりあえず、早く入れ!」
「くっ!」
俺は鎧を着た人に背中を押されて、牢屋の中に入れられる。
そして、鎧を着た人はすぐさま鉄格子の扉を閉めて、鍵をかける。
俺はその扉に近づき、鎧を着た人を見る。
「待ってくれ! 何がなんだか俺にはわからないんだ! そもそもここは何処なんだ!」
「だから、後でゆっくりと話すと言っているだろうが。貴様はしばらくそこにいろ!」
「そ、そんな……!?」
鎧を着た人はそう言うと、そのまま歩いて何処かへと行ってしまう。
俺が何をしたって言うんだ……?
そもそも、ここは何処なんだ?
日本じゃないのか……?
何で、俺はここにいるんだ?
あの穴が何か関係あるのか……?
わからない。
自分の身に何が起きているのか、わからない!
「何で……こんな事になってんだよ。何で牢屋なんかに……」
とりあえず、俺は奥へと行こうと思い、奥の方を見た時だった。
俺は自分の目を疑った。
「ん……?」
「……」
俺は目を擦ってから、もう一度よく見てみる。
そこに人の形があり、ルームメイトなのは確かだ。
だが……その人はおかしいのだ。
何故かと言うと、その子の頭に犬の耳だろうか……? それが生えており、腰辺りにはモフモフしてそうな尻尾が生えているのだ。
アクセサリーか、何かだろうか?
俺はそう思い、その子に近づく。
「あの……ここの部屋にいた人ですか?」
「……誰?」
その子は俺の言葉に反応したのか、顔をあげる。
どうやら、俯いていた様だ。
ここを照らしているのは火だ……。
なので、扉が狭い牢屋の奥にはその火の光が届いていない。
だが、それと同時に驚いた。
その暗い場所で紅く光るものが二つ見えるのだ。
しかも、それは瞳の様にも見える。
俺はこのままではよくわからないと思い、辺りを見渡すと、蝋燭があるのを見つける。
俺はそれを見つけると、蝋燭とその受け皿を手に持ち、辺りを見渡す。
どうにかして、火を灯す事は出来ないだろうか。
マッチか、何かあればいいのだが……。
俺は火をつけるものを探すために辺りを見渡すが、火をつけられる様なものはない。
仕方ない……鎧を着た人に頼むか。
俺は火を灯してもらうために、扉の方へと行こうとした時だった。
足で何か蹴るのを感じた。
俺はそれに反応して、床の方をよく見てみると、そこには手に収まるサイズの箱があった。
それを拾い上げると、箱の蓋が取れる様になっていたので、それを取ってみると、中にはマッチが入っていた。
あった……よかった。
俺は一本取り出して、マッチに火をつけると、蝋燭に火を灯す。
火が灯った蝋燭を持って、奥の方へと行く。
そこには少女がいて、闇に紛れる様にあった黒髪が見えて、その頭には確かに髪の色と同じ犬耳がある。
その少女の双眸からは紅い瞳が見えており、腰には髪と同じ色の尻尾が生えている。
声で女の子だろうと思っていたが、まだ子供だぞ?
多分、中学生くらいだろう。
そんな子が何でこんな所にいるんだ?
何か罪を犯してしまったのだろうか?
俺は不思議に思いながら、座り込んで、少女と同じ目線になる。
「なぁ……」
「な、何……?」
俺が話し掛けた瞬間、少女はビクッと震えた。
まるで人に怯えている様に。
少女は体を震わせながら、俺を見てきている。
人間不信……なのか?
だけど、このままでいるのも……ダメだよな。
この牢屋に一緒にいるわけだし。
ずっといるつもりはないが……少しの間でも一緒にいるのだ。
少しは打ち解けてないといけない。
「貴方も……」
「ん?」
「貴方も、私に……何かするの?」
「え? ど、どういう意味?」
「貴方も……私に何かするの? 怖い人達みたいに、私を殺すの? 父さんと母さんを殺した時みたいに……」
「ッ!? そ、そんな事しない! 俺はただ君と話がしたいだけで……」
「……信じられない」
どうやらこの子は、自分の両親を殺されてしまった様だ。
だから、人を恐れているのかもしれない。
だけど……何でこんなところに?
逆に捕まるのは、その殺した人達ではないだろうか?
俺は不思議に思いながら、少女を見る。
「大丈夫……。俺は何もしないよ。大丈夫だから……」
俺はゆっくりと手を少女に伸ばしながら、安心させる様に言う。
人間不信の子にこんな事言って、意味はあるのかはわからないが、とりあえずは安心させた方がいいのかもしれない。
「大丈夫。大丈夫だから」
俺はそう言いながら、手が少女に触れようとした瞬間、少女は口を開き、俺の手に噛みついてきた。
「い、痛っ!?イタタタタタタタタタタ!?か、噛みつかないで!」
「ガルルルルルルッ!」
俺は手を抜こうとするが、少女が強く噛みついて抜けそうにない。
だけど、この子を殴ったり蹴ったりすれば、逆効果だろう。
ど、どうすればいいんだ!?
俺があれこれ考えている間にも、俺の手を噛む力が強くなってきている。
このままだと、手を食いちぎられてしまうだろう。
どうにかして、離してもらわないと。
「と、とりあえず噛むのをやめて!」
「ガルルルルルルッ!」
ダメだ……離してくれる気配がない。
俺は蝋燭を持っているのを思い出し、それを少女の目の前に持っていく。
少女はそれに驚いたのか、噛みつくのをやめて、牢屋の角の方へと行って、蹲ってしまう。
どのみち……こうするしかなかっただろう。
俺はため息を吐くと、少女を見る。
とりあえず……時間をかけて、溝を埋めていくしかない。
そこまで長くはいないから、話せる様になるかはわからないけど……。
そして、扉が開く音が聞こえ、その方向を見てみると、鎧を着た人が立っていた。
「オイ、お前! 事情聴取をする! 来い!」
「だから、俺は暗殺をしようなんて……」
「いいから、来い!」
「くっ!」
俺は無理矢理腕を掴まれて、牢屋から連れ出されてしまう。
そして、そのまま鍵を閉めて、俺は目隠しをさせられて、何処かへと連れて行かれる。
*
部屋に着いたのか、俺は椅子に座らせられ、目隠しを取られる。
それにより、何も見えない暗闇の状態から日の光が目を差し込む状態に変わり、眩しくて目を細める。
しばらくしてから目が慣れて、目の前にいる……あの時の中年の男を見る。
「さて……姫様を暗殺しようとした理由を聞こうか?」
「俺は暗殺しようとなんてしていない!」
「ほぉ……。なら、何故姫様にぶつかった? 本当は空から襲いかかるつもりだったのだろう?」
「違う! 俺が空から降ってきたのは、変な穴に落ちたと思ったら、上空に投げ出されていたんだよ!」
「変な穴に落ちたと思ったら、上空に投げ出されていた……? アハハハハ! 冗談もほどほどにしておけ! 穴に落ちたら、空に投げ出されたって……ありえるか! 穴に落ちたら、空に出るなどおかしいだろう!」
「嘘じゃないんだって! 本当に穴に落ちたかと思ったら、上空に投げ出されてて……」
「えぇい、うるさい! そんな嘘をまだ言うか!」
「嘘じゃない! 本当の事なんだ!」
「そんな嘘はもうどうでもいい! 言え! 誰の命令でこんな事をした! 貴様のボスは誰だ! それとも貴様の単独犯か!」
「だから! 俺は暗殺しようとなんてしてない!」
「まだシラを切るつもりか……! いいだろう、今回はここまでにしておいてやる! だが、必ず全てを吐かせるからな!」
「だから……!」
「連れて行け!」
「ハッ!」
中年の男の言葉に鎧を着た人は敬礼をして答え、俺の腕を掴んで引きずり始める。
「俺は何もしようとしていない! 俺は本当に穴が落ちて……!」
「誰がそんな話、信じるものか!」
「ぐっ……!」
た、確かにそうだ。
穴に落ちて、空から降ってくるなんておかしな話だ。
普通なら空から落ちてくるハズがない。
だからこそ、信用されないのもわかる……。
だからと言って、暗殺する気もないのに……。
と言うより、俺はここが何処か知らない。
俺は日本にいたハズなのに、ルミーナ国と言う国にいた。
しかも、その国の上空に。
何でこうなっているのか……。
俺には何がなんだか、もうさっぱりだ。
何でこんな事になっているのだろうか?
やはり、あの時の占い師の言葉を信じるべきだったのだろうか?
後悔しても遅いとはわかっているが……こんな目に遭っている理由が未だに理解出来ない。
あれこれ考えている俺を知ってか知らずか、鎧を着た人は俺を引きずって、この部屋を後にするのだった。
*
「ほら、入れ」
「……」
俺は背中を押されて、牢屋の中に入り、鎧を着た人が扉を閉める前に、何かを置いてから、扉を閉める。
それを見てみると、二つ分のお盆があり、お盆の上にはパンと水がある。
「これがお前等の飯だ。さっさと食え。いいな?」
「あぁ」
俺は鎧を着た人の言葉に頷き、お盆を持って奥へと行く。
俺は蝋燭を見てみるが、何も変化がない。
変化がないと言うのは、蝋燭のロウが溶けていないのだ。
さっきと変わらない長さで、小さくなってないのが不思議に思える。
とりあえず……一緒に飯を食おう。
そう思い、少女の元へと向かい、片方の盆を渡そうとすると、とあるものが目に入る。
盆の上に紙が乗っているのだ。
その紙を手に取り、見てみると、その紙には何かが書いていた。
「ルーシャ……ルフレッド?」
「……」
俺がその紙に書かれている文字を読むと、少女がピクッと反応した。
この子の名前なのだろうか?
俺はそう思いながら、少女の方を見る。
「お前の名前はルーシャ・ルフレッドって言うのか?」
「……うん」
少女……ルーシャ・ルフレッドは頷きながら、返事をする。
この子はルーシャ・ルフレッドと言うのか……。
恐らく、紙が乗っていた方はルーシャの飯なのだろう。
わざわざわけるとは、ご丁寧なこった。
俺は名前が書かれていた紙を乗せていた盆の方をルーシャに渡す。
ルーシャは盆に乗っているパンと水を見てから、俺の方を見てくる。
「一緒に食べよう、ルーシャ」
「……私の名前を呼ばないで」
「でも、さっきは頷いたじゃないか?」
「貴方が確認を取ってきたから、頷いただけ……」
「そうか……」
まだ信用されてない様だ。
俺はそう思いながら、パンを食べようと思い、手に取った時だった。
ルーシャがパンを手に取ると、ニオイを嗅いでいるのだ。
俺はそれに不思議に思い、ルーシャを見ていると、ルーシャはそのパンを壁に投げつけたのだ。
そして、水のニオイを嗅いでから、また同じように床に捨てた。
俺はその行動に驚き、ルーシャを見る。
「何してんだよ、ルーシャ!」
「毒……」
「え?」
「毒が混ぜ込まれてたから……捨てたの」
「毒……!? 何でそんなものが……。いや、それよりも……毒が入ってるって、何でわかったんだ?」
「……わかっているくせに」
「わかっているって……」
俺にはさっぱり。
ニオイで判断出来ると言う事なのだろうか?
でも……人間にそこまでの嗅覚があるだろうか?
それにさっきから気になっていたのだが、耳も尻尾も動いている様に見える。
あれはアクセサリーじゃないのか?
本当に生えているのだろうか?
いや……そんな事があるハズがない。
漫画やアニメじゃないのだ。
そう言う事が現実にあるハズがない。
だが、さっきからルーシャの耳がピクピクと動いている。
すると、お腹が鳴る音がルーシャの方から聞こえる。
お腹が鳴ったのを聞かれて恥ずかしいのか、ルーシャは頬を紅くする。
俺はそれを見ると、自分のパンを半分にちぎり、その片方を差し出す。
「え……?」
俺の行動に驚いたのか、目を見開きながら、パンと俺を交互に見る。
「あげる」
「いいの……?」
「あぁ、いいよ。一緒に食べよう、な?」
「……」
ルーシャは俺が半分にしたパンを手に取り、あの時と同じようにニオイをかぎ始める。
そして、大丈夫だと判断したのか、パンを食べ始める。
俺はそれを見て、微笑む。
食べるのが早いところを見ると、同じ事を何回もしていたのだろう。
よく飢え死にしなかったものだ。
でも、俺は一番気になるのはピクピク動いているあの耳とさっきより元気そうに左右に振っている尻尾だ。
なんだかこれを見ていると、商店街にいた犬を思い出す。
もう亡くなっちゃったけどな。
「ん……」
「ん?」
ルーシャの小さい声に反応して見てみると、俺は無意識の内にこの子の頭を撫でていた。
噛まれるかと思い、身構えていたが、さっきとは違い、噛みつこうとせず、気持ちよさそうに目を細めている。
信用してもらったのだろうか? それとも受け入れてもらえたのだろうか?
まぁ、こう出来るのだ……心を許してくれたのだろう。
「貴方の手……」
「ん?」
「温かくて、気持ちいい」
「そうか」
うん、心を許してくれている。
食べ物で釣った様な気もするが……許してくれたのだからよしとしよう。
しばらくルーシャを撫でていたが、そろそろやめようと思い、撫でるのをやめた。
「あ……」
撫でるのをやめて、手を退けた瞬間、ルーシャが物欲しそうな目で俺を見てくる。
どうしたのだろうか?
俺は不思議に思いながらも、ルーシャを見る。
とりあえず……今なら話を聞いてくれるかもしれない。
「なぁ、ルーシャ……あ、名前を呼ばれるのは嫌だったな」
「貴方なら……いい」
「そうか? なら」
「その代わりに、貴方の名前を教えて?」
「俺は祥司……椎原祥司って言うんだ」
「ショウジ……?」
「そう、俺は祥司」
「ショウジ……うん、覚えた。よろしく、ショウジ」
「あぁ。もう俺は大丈夫なのか?」
「うん、ショウジは優しい。あの時も私と仲良くしようとしただけなのに、私が噛みついちゃった……ゴメン」
「気にしなくていいよ。それよりも、何でルーシャはここにいるの?」
「……」
「嫌なら無理して話さなくてもいいからな?」
「ううん、ショウジには話す。何で、私がこんな所にいるのかを。私がここに連れて来られたのは、一週間くらい前。私が珍しいからって言う理由で連れてこられたの」
「珍しい……? どういう意味だよ?」
「? ショウジ、私を見て、何とも思わないの?」
俺はルーシャの言っている事がわからない。
珍しいとは耳と尻尾が生えているからだろうか?
だから、こんなところに入れられたのだろうか?
俺がそう思った時だった。
「私は獣人族でも珍しい狼種の獣人族なんだよ?」
「狼種……? い、いや、獣人族って……!?」
「? 私の種族だよ? この狼の耳と尻尾が証拠」
「犬の耳じゃ……」
「狼の耳だもん」
俺が犬耳だったと思っていた事を言うと、狼の耳だと言って、怒っている様に俺を見てくる。
正直可愛いとしか言い様がないが……それよりもだ。
獣人族って、どういう事だ!?
現実にそんなのいるハズがない!?
でも……どうして!?
俺が頭の整理をしているのを知ってか知らずか、ルーシャはそのまま言葉を紡ぐ。
「だからね……私はここに連れてこられたの。ここに……獣人族での絶滅危惧種の狼種だから」
「どういう事だよ……?」
絶滅危惧種? 狼種? 獣人族?
もう何がなんだかさっぱりだ!
だが、あの時撫でていた時、耳に手が当たったが、あれは確かに本物の耳だった。
となると、俺は……俺は今、何処にいるんだ!?
そもそも地球にいるのか!?
「話すね……。私に何があったのかを」
「ちょっと待ってくれ。そもそも……ここは何処なんだ!? 日本は何処にあるんだ!?」
「ニホン?」
「そうだ! 日本って言う国だよ!」
「? ショウジ、変な事言うね。ニホンって言う国なんてないよ?」
「え? そ、そんなわけ……ここは地球なんだから」
「チキュウ? 世界の名前? 違うよ。この世界は『マーナリー』って言う世界だよ?」
「え……?」
その時、俺はわかった。
異世界に飛ばされたのかもしれないと……。
それなら、上空から落ちてきたのもうなずけると。
俺はこの事実をしばらく、受け止められないでいた。
ルーシャが何回も俺の名を呼んでいたが、その日は反応する事は出来なかった。
頭の整理が必要だったから。
如何だったでしょうか?
誤字、脱字などがありましたら、報告してください。
それではまた次回。