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大変美味しく頂きました

「ペットポトルに巻いてあるビニールの紙あるじゃないですか。 あれを付ける仕事ですよ。

それ、10年やってました。」


二本目のタバコに火を付けようとした時、ようやく安井は口を開いた。


辛気臭い取り調べ室に安井のヨレヨレの薄汚れた安っぽいコートと無精髭が生え、自分で切ったであろうだらしない髪型に加え気の抜けた陰気な顔は完全にマッチしていた。


岡田刑事はタバコを加えながらめんどくさそうに安井に尋ねた。

「で、それとお前が一人暮らしの女性のマンションのベランダで全裸で下着を物色する癖があるのとどういう関連性があるんだ?」


安井はこの若くがっちりとして四角い顔をした細い目の刑事の目をじっと見ながら話し出す。


「刑事さん、僕は人の性的趣味はみんな偏ってると思うんですよ。特に先進国かつ病んでるこの国は特に。それを行動に移すか移さないか、ただそれだけで。みんな言えないだけで。僕が何故行動に移したかというと、聞いた通り、僕は地味な仕事をしています。ご覧の通り、しょうもない顔です。内気で友達も少なくこれといった趣味もありません。僕は、やるしかなかったんです。自分の性的フェチ行為を。」


岡田刑事は気だるそうにタバコの煙を吐き出し、安井から目を反らし溜め息交じりに言った。

「お前なぁ、犯罪は犯罪なんだよ。

例えお前がどんな境遇で育ち、どんな性癖があろうとしったこっちゃない。お前はしてはいけないことをしたんだ。そこに同情の余地は無い。

もし被害者の女性がその場にいてお前を観たら怖くてトラウマになるぞ。俺だってベランダで全裸のお前が歌いながら下着を物色してる姿を想像するだけで怖い。」


安井は長い前髪を繋がれた手錠でかきあげながらぼそぼそとつぶやくように話しはじめた。

手錠の音がカチャカチャと忙しなくなる。


「刑事さん、私は確かに犯罪を犯しました。しかしね、私のこの性的フェチズムは他ならぬ社会が産んだのです。刑事さん、私は加害者であると同時に被害者です。私にとってこの社会は加害者です。私は、赦してほしくなんかない。私もこの社会を赦さないので。」


岡田刑事はめんどくさそうに即答した。

「お前どんだけ格好付けたってその犯行は本格的にダサいぞ」


安井はふと微笑を浮かべ上を見上げながら答える。

「刑事さん、私は悔いはありません。自分のやりたいことをやりたいだけしたんだから。この国で自由に生きるには法律を犯さなければ不可能です。自由とはそういうものですから。私は自分の罪を隠しはしません。胸を張って答えましょう。

私は、全裸で女性の下着を窃盗したのだと。

私はこの国のシンボルです。」


岡田刑事は声にならない声を発した。

「駄目だこいつ、早くなんとかしないと」



留置所は冷たい。体感的に冷たいというのではなく雰囲気が冷たい。

鉄格子に鉄筋の壁、畳五畳の部屋に和式便所。


この部屋に安井の他にもう一人身柄を拘束されている男がいる。

最大三人まで1つの部屋に入れる。


安井の隣で寝っころがっている男は推定40歳、小太りの男だ。

彼は覚醒剤の売人だった。

男はあぐらをかいてうつむいている安井のほうをじっと見て声をかけた。


「おい、お前何したんだ?」


安井は男のほうを振り向き長い髪の毛をかきあげながら微笑を浮かべながら答えた。


「ちょっとやくざと揉めてね」

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